読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ノンフィクション

佐川光晴「牛を屠(ほふ)る」

以前、服部文祥の「狩猟サバイバル」を読んで 、自分で食べるものを自分で殺し捌くことへの意義を知った。普通、人は肉を食べるとき、すでに精製 されてきれいに商品化された肉を買う。だが、それはもとは一体の生きた動物だったのである。ぼくた ちはそれが…

山田風太郎/鹿島茂「鹿島茂が語る山田風太郎 私のこだわり人物伝」

NHKで、こんな番組やってたの?知らなかったなぁ。知ってたら絶対観たんだけどなぁ。 そう、ぼくは山田風太郎バカです。彼の名があれば、それがなんであっても手に入れたくなるし、どん なしょうもないものでも欲しくなってしまうのだ。だから、本書も即…

椎名誠「全日本食えば食える図鑑」

これは、あの椎名誠が日本全国を旅して、普通は食べることのない珍食奇食を食べつくすというゲテ物食 べ歩きエッセイなのである。だからといって、見るもオゾマシイこんなの食えるか!というものばかりが 登場するわけではない。いたってノーマルな『ハチの…

ピーター・スターク「ラスト・ブレス  ―死ぬための技術―」

副題に「死ぬための技術」とあるが、なんのことはないここで描かれるのは死と隣り合わせになった極限 状態の人間たちなのだ。本書ではそれを一話づつドラマ仕立てで簡潔に描いてみせる。 本書に出てくる様々な死の演出は以下のとおり。 第一章「低体温症」 …

服部文祥「狩猟サバイバル」

著者の服部氏はぼくより年下なのである。そんな彼がちょっと普通では考えられないことをしている。 それがこの本のタイトルにもなっている狩猟サイバイバル登山なのだ。 米や調味料などの必要最小限の物だけを携帯し単独で冬の険しい山に分け入り、自分で食…

阿刀田高「アイデアを捜せ」

本書では、非常に貴重な作家の創作秘話が語られている。短編の名手といわれている阿刀田氏の小説を書 く極意が語られていてとても興味深い。阿刀田氏の作品はいわゆるアイディア・ストーリーと呼ばれるも のが多く、分類的にはダールやサキやコリアのような…

東雅夫「怪談ハンドブック 愉しく読む、書く、蒐める」

怪談のエキスパートといえば、この人なのである。いままで、ホラー系のアンソロジーやホラー作品の解 説で名前を見かけて、ああこの人はこの分野に明るい人なんだなくらいの認識しかなかったのだが、本書 を読んで、その生粋の怪談マニアっぷりにお見逸れし…

大谷昭宏「事件記者 新婚夫婦殺人事件」

本書の単行本が発売されたのが、1987年。それが幻冬舎アウトロー文庫になったのが1998年。 ようやく、この《幻の傑作》と呼ばれていた本を読むことができた。といっても、ただ怠慢なだけでいつ でも読めたのに、読まなかっただけなんだけども。 本書…

ウェンディ・ムーア「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」

本書を読んで感じるのは、一人の男の溢れんばかりの情熱である。それは狂気にも似た熱狂であって、常 人の目から見れば常軌を逸していると映っても仕方がないものだ。 しかし、18世紀という暗黒時代に毛の生えたような医療の黎明期にあって、このジョン・…

北上次郎「新刊めったくたガイド大全」

この活字中毒者による1979年から1994年の15年間の読書ガイドは、もっぱら彼の独断と偏見に 満ちていて、世の中一般の人たちに通じるかといえばそんなことはないと思う。 だが、やはり北上次郎という名を見るだけで、そこそこの読書通は一目置いて…

「秘密の動物誌」荒俣宏監修

みなさん、この本ご存知?この本が出版されたのは1991年だから、もう16年かあ。ということは 知らない人も多いかな? 本書はとある学者が集めた奇妙な生き物についての写真集みたいなものである。表紙の写真ではわかり にくいと思うが、中央になんか写…

山口雅也「ミステリー倶楽部へ行こう」

もともとこの人はワセダ・ミステリ・クラブにいた人で、「生ける屍の死」で大々的にブレイクする前は 主に評論やミステリの紹介をしていた人だった。小説も「13人目の名探偵」(←後の「13人目の探偵 士」)しか書いてなかった。そんな彼のことを知ったの…

喜国雅彦「本棚探偵の冒険」

本好き、それも古本に目が無い人にとって本書の登場はまさしく垂涎ものの喜びだったに違いない。 少なくとも、ぼくはそうだった。まったく、ほんとうに、鼻息荒く興奮した。 喜国雅彦の存在は本書を読む以前からよく知っていた。しかし、このルーズソックス…

平山夢明「異常快楽殺人」

以前、平山夢明のノンフィクションは読む気がしないと書いていたが、本書だけは別である。 この本をひらけば、およそこの世のこととはおもえない地獄絵図が現出する。 あとがきでも述べられてるが、本書を編集したスタッフの一人は、作業を一気に行ったため…

ジョン・グローガン「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」

普段はこういう本は読まないのだが、読みはじめるとついつい引きこまれてしまう。 本書は早川書房が10月6日に刊行する本のモニターアンケートに応募して、送ってもらった発売前の 簡易製本なのである。だから読んでアンケートを返送しなければならない。…

北上次郎「エンターテインメント作家ファイル108国内編」

北上次郎の書評が好きである。なんといえばいいか、彼の書評は気持ちを鼓舞するのだ。 たとえばそれがまったく知らない作家のものだったとしても北上書評にかかってしまえば、はやく読ま なきゃいけないと焦燥感にかられてしまうこと請け合いなのだ。 だから…

メアリー・ローチ「死体はみんな生きている」

死体となって後、人類のために貢献している人たちがいる。 解剖用の献体や臓器移植などはあたりまえに知っていたが、世の中にこれだけ死体を使った仕事がある のかと驚いた。 のっけから死体、死体と少々グロいと思われたかもしれないが、本書から受ける印象…

江戸川乱歩『探偵小説の「謎」』

乱歩はエッセイや評論も数冊残しており、これがなかなかおもしろい。彼は創作では破綻することが多 かったが、この分野では思いのままに筆を運ばせているので、読んでいるこちらの方も活き活きしてく る。エッセイとしては「悪人志願」、「幻影の城主」、「…

高野秀行「ミャンマーの柳生一族」

この著者の本は、はじめてなのだが強烈なタイトルに惹かれて思わず手にとってしまった。 ミャンマーに柳生一族?はて?伝奇小説か?本を開く前に昂ぶる期待を抱いてしまったくらいだ。 しかし、よくよく確かめてみるとどうも本書は旅行記のルポらしい。 著者…

上原隆「友がみな我よりえらく見える日は」

啄木の有名な詩の一節を冠する本書には、様々な人たちの人生模様が描かれている。 自分の容貌にコンプレックスを抱き、恋愛経験のないまま単調な毎日を淡々と過ごす46歳のOL。 人が良すぎて人生の階段を踏み外し、ホームレスとして生活する50歳の男性…

マイケル・ギルモア「心臓を貫かれて」

本書を読むまで、このゲイリー・ギルモア事件のことはまったく知らなかった。 その当時は、かなりセンセーショナルな事件として日本でも雑誌などで騒がれたらしいのだが、記憶に はない。 さて、ではそれがどんな事件だったのかということなのだが、この事件…

柳田邦男「マッハの恐怖」

航空機の墜落事故ほど悲惨な現場はない。そこには、考えも及ばない未知の力によって破壊されつくした 残骸しか残っていない。航空機も人体も悲惨なまでに損壊してしまう。以前、御巣鷹山123便墜落事故 に関する本を読んだことがあるが、まさしく目を覆う…

ライアル・ワトソン「アース・ワークス」

ずっと昔に「スーパーネイチャー」を挫折して以来、敬遠していたのだが、本書は短編形式だということ なので、再挑戦してみた。 ワトソンの視点は、サイエンティストにはあるまじきロマンティストのそれであって、扱っている題材は 『意識』、『偶然』、『利…

リチャード シュヴァイド 「ゴキブリたちの優雅でひそやかな生活」

一度、実家で今まで見たことないような種類のゴキブリを見た。大きくて、平べったくて、脚も太い。タ イやフィリピンあたりにいそうなやつだ。古い話だが、ジャミロクワイのミュージッククリップに出てた やつと同じだった。 どうしてあんなゴキブリがいるの…

アレン ネルソン「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」―ベトナム帰還兵が語るほんとうの戦争

この本で語られるベトナム戦争の体験談は、さほど目新しいものではありません。でもこれは児童書、戦 争から遠い場所で生活する現代の子供たちにとってはショッキングな内容だろうと思います。 なんて言ってるぼくにしたって戦争は体験してませんが、世代が…

ジェラルド・ダレル「積みすぎた方舟」

これはジェラルド・ダレルがアフリカのカメルーンに動物採取にいった時の体験記で、密林に生息する 様々な動物を追い求め、奮闘する姿が闊達な文章で生き生きと描かれています。おもしろいのが、彼が現 地で雇う原住民とのやりとり。特に笑ってしまうのが、…

氏家幹人「大江戸死体考―人斬り浅右衛門の時代」

わずかニ、三百年前には、こんなに巷に死体があふれていたのかと驚くばかりでした。 江戸の人たちはぼくたちよりずっと死体と身近に暮らしていたというわけなんです。 ましてや、その死体や罪人で刀のためし斬りするというのだからまったく考えられません。 …

小林恭二「悪への招待状 幕末・黙阿弥歌舞伎の愉しみ」

歌舞伎を通して江戸の風俗を味わう好読物です。 それも爛熟期の江戸ではなく、大きく変わろうとしている頽廃の香り高まる幕末の江戸なんです。 世は風雲急をつげ、世相は乱れ、庶民は日夜遊興に耽ることばかりを考えている。 今の日本では考えられない世界で…

レベッカ・ブラウン「家庭の医学」

これってノンフィクションなんですね。てっきり小説だと思ってました。ってか、ほとんど小説ですよ ね?作者自らが看取った母との最後の日々。生あるものが、灯火を燃え尽くして魂がぬけていく様が肉親 の目を通してるのにも関わらず、ドライで客観的な視点…