ノンフィクション
誰もが知っているとおり今回の東日本大震災では多くの人命が失われた。行方不明者も含めると、その数約二万人だという。そのほとんどの人が津波によって命を落としているのも周知の事実だ。何事もなく過ごしていた平凡な日常が一瞬にして変貌し、地獄と化し…
山田風太郎の描きだす世界はよく『魔界』に例えられるが、それはいかがなものかとぼくは思う。確かに幻妖、怪奇なんて文句が似合いそうな雰囲気はあるのだが、まったく未知の人が風太郎作品を思い描くとき、十把一絡げに決まり文句のように『魔界』をもちだ…
今年の五月に亡くなられた児玉さん。紳士という言葉がこれほどぴったり当てはまる人もいなかった。ぼくは特別この人のファンでもなかった。しかし、彼がオススメする本には敏感に反応した。いまとなっては何がきっかけで児玉氏に注目するようになったのか定…
いつもおいしくいただいている『肉』。ぼくたちは食材としてきれいに切って並べてパックに入れられた『肉』を食べている。それは元は生きた動物だったのだ。しかし、そのことを理解していても生きて動いている動物たちが、食材としての『肉』になるまでの過…
週刊ブックレビューで、盛田隆二氏が合評で紹介されてた本で、他の出演者の方々も皆本書のことをおもしろいと興奮気味に話しておられるのをみて、どうにも読みたくなってしまった一冊。 インドネシア諸島のレンバタ島にあるラマレラという村に銛一本で巨大な…
つい先日、豊﨑由美氏と杉江松恋氏の二人が書評講座「書評の愉悦出張版」というトークイベントを開催された。西村賢太「どうで死ぬ身の一踊り」(表題作のみ)とJ・P・マンシェット『愚者が出てくる、城塞が見える」の二作品のどちらかの書評を800字~…
歌人である著者が日々暮らす中で出くわすあまりにもおかしい『天使的な言葉』の数々。そこには目からウロコ的な笑いのツボにあふれたものや、鋭敏な言葉の感覚を持つ著者だからこそ気づくことのできるちょっと普通じゃないシチュエーション、偶然によってこ…
また角川文庫から山田風太郎ベストコレクションと銘打って新装版の文庫シリーズが刊行されている。 これは山田作品を総括してその中からのベストチョイスとなっているので、忍法帖から明治物からミステリからエッセイからすべて選出されており、確かに代表作…
以前、服部文祥の狩猟サバイバルを読んで、自分で食べるものを自分で殺し捌くことへの意義を知った。普通、人は肉を食べるとき、すでに精製されてきれいに商品化された肉を買う。だが、それはもとは一体の生きた動物だったのである。ぼくたちはそれが生きた…
NHKで、こんな番組やってたの?知らなかったなぁ。知ってたら絶対観たんだけどなぁ。 そう、ぼくは山田風太郎バカです。彼の名があれば、それがなんであっても手に入れたくなるし、どんなしょうもないものでも欲しくなってしまうのだ。だから、本書も即購…
これは、あの椎名誠が日本全国を旅して、普通は食べることのない珍食奇食を食べつくすというゲテ物食べ歩きエッセイなのである。だからといって、見るもオゾマシイこんなの食えるか!というものばかりが登場するわけではない。いたってノーマルな『ハチの子…
副題に「死ぬための技術」とあるが、なんのことはないここで描かれるのは死と隣り合わせになった極限状態の人間たちなのだ。本書ではそれを一話づつドラマ仕立てで簡潔に描いてみせる。 本書に出てくる様々な死の演出は以下のとおり。 第一章「低体温症」 第…
著者の服部氏はぼくより年下なのである。そんな彼がちょっと普通では考えられないことをしている。 それがこの本のタイトルにもなっている狩猟サイバイバル登山なのだ。 米や調味料などの必要最小限の物だけを携帯し単独で冬の険しい山に分け入り、自分で食…
本書では、非常に貴重な作家の創作秘話が語られている。短編の名手といわれている阿刀田氏の小説を書く極意が語られていてとても興味深い。阿刀田氏の作品はいわゆるアイディア・ストーリーと呼ばれるものが多く、分類的にはダールやサキやコリアのような『…
怪談のエキスパートといえば、この人なのである。いままで、ホラー系のアンソロジーやホラー作品の解説で名前を見かけて、ああこの人はこの分野に明るい人なんだなくらいの認識しかなかったのだが、本書を読んで、その生粋の怪談マニアっぷりにお見逸れしま…
本書の単行本が発売されたのが、1987年。それが幻冬舎アウトロー文庫になったのが1998年。 ようやく、この《幻の傑作》と呼ばれていた本を読むことができた。といっても、ただ怠慢なだけでいつでも読めたのに、読まなかっただけなんだけども。 本書…
本書を読んで感じるのは、一人の男の溢れんばかりの情熱である。それは狂気にも似た熱狂であって、常人の目から見れば常軌を逸していると映っても仕方がないものだ。 しかし、18世紀という暗黒時代に毛の生えたような医療の黎明期にあって、このジョン・ハ…
この活字中毒者による1979年から1994年の15年間の読書ガイドは、もっぱら彼の独断と偏見に満ちていて、世の中一般の人たちに通じるかといえばそんなことはないと思う。だが、やはり北上次郎という名を見るだけで、そこそこの読書通は一目置いてし…
みなさん、この本ご存知?この本が出版されたのは1991年だから、もう16年かあ。ということは知らない人も多いかな? 本書はとある学者が集めた奇妙な生き物についての写真集みたいなものである。表紙の写真ではわかりにくいと思うが、中央になんか写っ…
もともとこの人はワセダ・ミステリ・クラブにいた人で、「生ける屍の死」で大々的にブレイクする前は主に評論やミステリの紹介をしていた人だった。小説も「13人目の名探偵」(←後の「13人目の探偵士」)しか書いてなかった。そんな彼のことを知ったのは…
本好き、それも古本に目が無い人にとって本書の登場はまさしく垂涎ものの喜びだったに違いない。 少なくとも、ぼくはそうだった。まったく、ほんとうに、鼻息荒く興奮した。 喜国雅彦の存在は本書を読む以前からよく知っていた。しかし、このルーズソックス…
以前、平山夢明のノンフィクションは読む気がしないと書いていたが、本書だけは別である。 この本をひらけば、およそこの世のこととはおもえない地獄絵図が現出する。 あとがきでも述べられてるが、本書を編集したスタッフの一人は、作業を一気に行ったため…
普段はこういう本は読まないのだが、読みはじめるとついつい引きこまれてしまう。 本書は早川書房が10月6日に刊行する本のモニターアンケートに応募して、送ってもらった発売前の 簡易製本なのである。だから読んでアンケートを返送しなければならない。…
北上次郎の書評が好きである。なんといえばいいか、彼の書評は気持ちを鼓舞するのだ。 たとえばそれがまったく知らない作家のものだったとしても北上書評にかかってしまえば、はやく読ま なきゃいけないと焦燥感にかられてしまうこと請け合いなのだ。 だから…
死体となって後、人類のために貢献している人たちがいる。 解剖用の献体や臓器移植などはあたりまえに知っていたが、世の中にこれだけ死体を使った仕事がある のかと驚いた。 のっけから死体、死体と少々グロいと思われたかもしれないが、本書から受ける印象…
乱歩はエッセイや評論も数冊残しており、これがなかなかおもしろい。彼は創作では破綻することが多 かったが、この分野では思いのままに筆を運ばせているので、読んでいるこちらの方も活き活きしてく る。エッセイとしては「悪人志願」、「幻影の城主」、「…
この著者の本は、はじめてなのだが強烈なタイトルに惹かれて思わず手にとってしまった。 ミャンマーに柳生一族?はて?伝奇小説か?本を開く前に昂ぶる期待を抱いてしまったくらいだ。 しかし、よくよく確かめてみるとどうも本書は旅行記のルポらしい。 著者…
啄木の有名な詩の一節を冠する本書には、様々な人たちの人生模様が描かれている。 自分の容貌にコンプレックスを抱き、恋愛経験のないまま単調な毎日を淡々と過ごす46歳のOL。 人が良すぎて人生の階段を踏み外し、ホームレスとして生活する50歳の男性…
本書を読むまで、このゲイリー・ギルモア事件のことはまったく知らなかった。 その当時は、かなりセンセーショナルな事件として日本でも雑誌などで騒がれたらしいのだが、記憶に はない。 さて、ではそれがどんな事件だったのかということなのだが、この事件…
航空機の墜落事故ほど悲惨な現場はない。そこには、考えも及ばない未知の力によって破壊されつくした 残骸しか残っていない。航空機も人体も悲惨なまでに損壊してしまう。以前、御巣鷹山123便墜落事故 に関する本を読んだことがあるが、まさしく目を覆う…