読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

児玉清「寝ても覚めても本の虫」

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 今年の五月に亡くなられた児玉さん。紳士という言葉がこれほどぴったり当てはまる人もいなかった。ぼくは特別この人のファンでもなかった。しかし、彼がオススメする本には敏感に反応した。いまとなっては何がきっかけで児玉氏に注目するようになったのか定かではないのだが、彼が書いている解説を読んで、矢も盾もたまらずレジに走った本はよく覚えている。鳥越碧「一葉」だ。この本の解説読んだら絶対読まなくちゃと誰でも思うはず。それほどまでに激烈で熱く愛情あふれる解説だった。そしてこの本を読んで心底感動したし、児玉氏の言葉に嘘はなかったと全幅の信頼を寄せたのだった。児玉氏が『週刊ブックレビュー』の司会をされていることは知っていたし、彼が超のつく海外エンターテイメント本好きというのも知っていた。でも、よくよく思い返すと、このあたりから児玉氏オススメの本に注目するようになっていったんじゃないかと思うのである。

 

 そうやって見てみると、児玉氏が解説を書いている本がいかに多いかということに気づいて驚く。海外エンターテイメントは言うに及ばず、時代小説、現代物、文学作品に至るまであらゆるジャンルの本について書いておられるのである。それは有名作だけではなく、あまり知名度の高くない本にまで波及し、その網羅ぶりには目を見張る思いがした。

 

 そして今回、この「寝ても覚めても本の虫」を読んでさらに舌を巻くことになる。ここで紹介されているのは海外作品ばかりであり、彼が愛してやまない海外エンターテイメントについて縦横無尽に語り尽くされているのだが、この分厚いハードカバーを原著で読んでしまうバイタリティそのままに、メジャーからマイナーな作家まで俎上にあげてしまう本に対する貪欲なまでの姿勢がほんとうに神々しいばかりなのである。いったいこの人はどれくらいのスピードで本を読んでるんだと感心してしまうくらいに次々と紹介される作家や本たち。好きな作家について語っている章などでは、目尻が下がって愛情豊かな表情がそのまま頭に浮かんでしまうほどだった。本書を読んでさらに児玉氏に対する畏敬の念が高まってしまったほどだ。

 

 そして本編が終わり、あとがきである「本のある日々」を読んだ時ぼくはさらに雷に打たれたかのような衝撃を受けてしまったのである。なぜならば、そこにぼくが居たのだ。そこで語られる児玉氏の本に対する思いは、まったくぼくが思ってるとおりのことだったのである。決してこれは特別なことではなく、本が好きで好きでたまらない者なら誰しもが持っている本に対する赤裸々な思いなのである。しかし、そうわかっていてもやはりそこに介在するシンパシーはぼくを有頂天にさせる。本好き以外には理解されにくいこの内なる衝動を児玉氏も抱えていたんだと思うだけで、なぜか心強く感じられるのである。

 

 ああ、この本を読んでよかった。ぼくは心からそう思う。児玉さん、長い間ご苦労様でした。これからは天国でゆっくり読書をして過ごして下さい。もしかしたら、先に天国にいる偉大なる作家たちの新たなる本を舌舐めずりしながら読んでたりして・・・・・・。