航空機の墜落事故ほど悲惨な現場はない。そこには、考えも及ばない未知の力によって破壊されつくした
残骸しか残っていない。航空機も人体も悲惨なまでに損壊してしまう。以前、御巣鷹山123便墜落事故
に関する本を読んだことがあるが、まさしく目を覆うばかりの惨状だった。しばらく食生活に影響が出た
ほどだった。
そんな悲惨な航空機事故が立て続けに起こった年がある。昭和41年春、わずか一ヶ月の間に3機の航空
機事故が起こり、300人をこえる人命が失われたという未曾有の年だった。
本書は、そのときの事故調査を著者の綿密なルポによって考証したノンフィクションなのである。
事故の原因究明とはなんと気の遠くなる作業であるか。
すでに起こってしまった事というのは過去の事であり、残された物だけで、何があったのか推測してい
かなければならない。
それは、まさにドラマであり、語るに値する出来事なのである。作者は記者という立場から、科学者に
も通ずる事実を直視する冷徹な眼をもって、飛行機墜落事故を綿密に分析している。しかし、道のりは
長い。それに、この問題には答えがないのだ。
委員会が設けられ、調査検討が続けられるが、結局明確な答えがでないのである。ぼくは以前から、ある
新しい物ができて、それが安全かつスムーズに使用できるまで、どれだけ試行錯誤があり、そしてそれが
製品化されて後、どんな事故があるのかどこまで予測できるのだろうかとよく考えていたのである。
これは絶対なくならない問題だ。改善はされていくが、けっしてなくならない。そして、その度に犠牲
者が出るのである。
本書はいまなお読み継がれているノンフィクションの傑作である。未読の方は是非ご一読していただきた
い。そこには、大きな力に立ち向かう著者の真摯で勇気ある姿が映っているのである。