読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

メアリー・ローチ「死体はみんな生きている」

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死体となって後、人類のために貢献している人たちがいる。

解剖用の献体や臓器移植などはあたりまえに知っていたが、世の中にこれだけ死体を使った仕事がある

のかと驚いた。

のっけから死体、死体と少々グロいと思われたかもしれないが、本書から受ける印象はまったくの正反

対だ。著者のローチはなかなかユーモアに秀でた人のようで、こんな殺伐としたテーマを扱っているに

も関わらず読んでるうちに思わず笑ってしまう記述も少なくなかった。

本書は十二の章にわかれている。

第一章  頭は無駄にできないすごいもの~死体で手術の練習

第二章  解剖の罪~人体解剖の始まり以来の死体泥棒などのあさましい物語

第三章  死後の生~人間の腐敗と防腐処理

第四章  死人が運転する~人体衝撃試験ダミーと恐ろしいが不可欠な耐衝撃性の研究

第五章  ブラックボックスを超えて~搭乗者の遺体が衝突のシナリオを語るとき

第六章  軍隊に入った死体~弾丸と爆弾の難しい倫理

第七章  聖なる死体~はりつけ実験

第八章  死んだかどうか見分ける方法~心臓が動いている死体、生き埋め、魂の科学的探究

第九章  頭だけ~断頭、蘇生、人間の頭部移植

第十章  私を食べなさい~薬としての食人風習と人肉団子事件

第十一章 火ではなく、コンポストへ~新しい死後の生

第十二章 著者の遺体~どうなることやら

やっぱり章題だけみると引いちゃう?いやあ、これが知らない世界を知るおもしろさというのだろうか

こんな事が行われているのかと驚くことばかりなのである。現代の死体業界のあらましと過去の様々な

エピソードを縦横無尽に語り、尚且つユーモアも忘れず読者を引きこむ術はなかなかのものである。

献体といっても、ほんとうに無尽の利用方法があるのだなと思った。

そういえば、以前に読んだ「大江戸死体考」という本にも奇妙な死体の利用法が書かれていた。

本書もそういったエピソードには事欠かない。例えば1800年代のドイツでは、死体が本当に死亡し

ているかどうかを判断するために腐敗を待つホールが建てられていたとか、人間の頭部移植をするとい

う研究に着手し実際に犬の頭部を移植した研究者がいたとか、十二世紀のアラビアのバザールでは蜜漬

けの人間が売られていたとか、書き出していったらキリがない。

とにかく本書には驚く事実が数多く紹介されている。こんな世界があったのかと思ってしまう。

知らなくてもよいことかもしれないが、知っても損はしない。世界は広い。まだまだ知らないことって

いっぱいあるんだろうなぁ。