読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

上原隆「友がみな我よりえらく見える日は」

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啄木の有名な詩の一節を冠する本書には、様々な人たちの人生模様が描かれている。

自分の容貌にコンプレックスを抱き、恋愛経験のないまま単調な毎日を淡々と過ごす46歳のOL。

人が良すぎて人生の階段を踏み外し、ホームレスとして生活する50歳の男性。

テレクラ遊びにハマっている旦那と、女子大生だと偽ってその旦那に電話をかけてしまう妻。

芥川賞をとりながら、ホームレス同然の生活を続ける男。

妻と別れ、家事をこなしながら生活する男たち。

登校拒否の少年。

うつ病の青年。

女優志願の女性。

リストラされた人々。

ここに描かれる人々は、自分の人生を享受し精一杯生きている人々である。著者はその人たちに取材し

、同じ目線で事実のみを語り起こす。なるほどかのボブ・グリーンと雰囲気はよく似ている。

読んでいて思うのは、人間とは順応する生き物なんだなあということ。どんな境遇にあってもその状況

を受け入れ、たくましく生き抜いていく。

ああ、こういう人生もあるんだなと思う。

様々な人生があるんだなと思う。

そこで自分を振り返ってみると、凡庸な人生だなと感じる。それがいいか悪いかということではない。

ぼくという人間は、こういう人生を生きてきた。凡庸だが、ささやかに真っ当に生きてきた。

有名でもないし、明日死んだとしてもそれほど世の中に影響を及ぼすこともない。

でも、それがぼくという人間であってそれ以上でも以下でもないのだ。でも閉じた世界の中でのみ通用

するぼくというブランドは確かに存在している。

それでいいんだと思う。いろいろ考えさせられたが、結局はそこに落ち着く。

そういうことなのだ。