本書の単行本が発売されたのが、1987年。それが幻冬舎アウトロー文庫になったのが1998年。
ようやく、この《幻の傑作》と呼ばれていた本を読むことができた。といっても、ただ怠慢なだけでいつでも読めたのに、読まなかっただけなんだけども。
本書はかつて読売新聞社の事件記者として大阪府警捜査一課を担当していた著者のドキュメントである。
デカとブンヤが時には喧嘩し、時には助け合い、持ちつ持たれつで張り合っていた時代の話なのである。
実際にあった事件を扱っているので、臨場感はなかなかのもの。初動捜査の手順や、警察内部の軋轢、事件に対する刑事たちの心情などなど読みどころはたくさんある。
しかしちょっと鼻についたのは、著者の文章だ。時に脱線気味で語られる大阪弁まるだしの言い回しは、なんとも落ち着かない気分にさせられる。ちょっと調子にのりすぎじゃないのと突っ込みのひとつもいれたくなってしまう。
それでも最後まで読んでしまったのは、やはり描かれる事柄が興味深いからであり、事件にかける刑事と記者の心情が汲み取れるからだ。
なんといってもサブタイトルにもなっている新婚夫婦殺人事件の顛末が読ませる。大阪が台風に見舞われた嵐の夜になんとも残虐な殺人事件が起こったわけなのだが、夫は頭を叩き割られて、背中を切りつけられ、妻は全身十数か所をメッタ切り、右手の指は三本なくなっており、左手にいたっては手首がうす皮一枚でぶら下がっている状態という凄惨さ。もちろん現場は血の海だった。
なんの落ち度もないこの新婚夫婦を襲った犯人逮捕にかける刑事と記者たちの執念が、これでもかというくらいに描かれる。ラスト近く、誰もが一目置く取調べの達人堅田刑事が容疑者を50日かけて自白させるくだりはまるでドラマのような展開だった。
このシリーズ、あと二冊出ているのだが順次読んでいくつもりである。なんせ、茶木則雄、北上次郎、有栖川有栖の三氏が褒めちぎっているくらいだから、ちょっとくらい文章の古臭さが鼻についたって、読んでおかなくては気がすまないってものではないか。