これは、あの椎名誠が日本全国を旅して、普通は食べることのない珍食奇食を食べつくすというゲテ物食べ歩きエッセイなのである。だからといって、見るもオゾマシイこんなの食えるか!というものばかりが登場するわけではない。いたってノーマルな『ハチの子』や『エチゼンクラゲ』や『鹿』なんてのもあるからわりとソフトなゲテ物紀行なのである。
実際、本書を読んでると紹介される数々の料理を食べてみたい気になってしまうから不思議なものだ。
まず最初に登場するのが『ヤシガニ』それから『エラブウミヘビ』、見た目がエイリアンの第二の口にそっくりな『ワラスボ』、肛門チンポコ生物『イソギンチャク』北海道の感動的にうまい『ザリガニ』、そして極めつけがあの気色悪いゴカイの仲間の『イラコ』。まー、これは遠慮したいなってのもあるのだが本書で紹介される食べ物のほとんどは本当に食べてみたいと思うのである。
おもしろいのは、椎名氏が古今東西の文献をひもといて、それらの珍食奇食に関する薀蓄を披露してくれたりするところだ。この食材に関しては、中国でこういう料理法があったとか、日本ではこんなに古くからこれが食われていたとか、なるほどと思えるおもしろエピソードが満載なのである。また、ところどころに椎名氏の思想があらわれるのも興味深い。釣りの『キャッチ&リリース』をバッサリ斬りすて、釣った魚は敬意を表して自分で食えと言い切ったり、ゲテモノ料理というのも所が変われば、まったくゲテモノにはならず、それが通常食としてまかり通っているのだから、どれがゲテモノでどれが通常食なのかという境界線は非常に曖昧なのだと論破したりと、頼もしい限りなのだ。
ぼく個人としては、こういった普段口にすることのない食材を食べるという行為に関してはとても肯定的なのである。だから、料理としてその土地で定着しているものならば昆虫を食べるということにも挑戦してみたいし、機会があれば世界各国のいろんな料理も食べてみたいのだ。
でも、やはり食べる前から抵抗のあるものもあって、葉巻ほどの大きさの幼虫を生でグチャグチャ食べるなんて芸当は死んでもできないし、生のアザラシの肉を食べるなんてことも絶対できないのである。
だからアボリジニやイヌイットの人々の中では通常に食されているこれらの食材は、ぼくの中ではゲテモノに分類されるのだ。やはり所変われば品変わるってことなのだなぁ。日本人も諸外国の方々から見ればなんでこんなもの食ってんだと思われてる食材がいっぱいあるんだろうなぁ。
そういったいろんな事柄が頭に渦巻いたままぼくは本書を読み終えた。食は文化というが、ほんとこの分野は奥が深く、果てしなく興味深い世界なのである。