もともとこの人はワセダ・ミステリ・クラブにいた人で、「生ける屍の死」で大々的にブレイクする前は主に評論やミステリの紹介をしていた人だった。小説も「13人目の名探偵」(←後の「13人目の探偵士」)しか書いてなかった。そんな彼のことを知ったのは1987年に出版された別冊宝島の「ミステリーの友」という雑誌だった。これは彼自身が記事も書いているしまた編者でもある好著で、いまから思えば執筆陣がとても豪華な顔ぶれだった。だって、新保教授や森英俊、瀬戸川猛資や北上次郎なんて評論家筋は当たり前としても、大沢在昌、志水辰夫、小池真理子、景山民夫、船戸与一、中島梓なんて作家陣も数多く記事を書いているのである。内容の方もなかなかおもしろく海外ミステリガイドとしては充実した一冊だった。
そんな彼のマニアっぷりが充分堪能できるのが本書「ミステリー倶楽部へ行こう」なのである。
本書を読んで感じたのは、やはりミステリーを極めるということは不可能だということだ。あらゆるジャンルにわかれ、多岐にわたるこの分野を網羅するには一つの人生ではあまりにも時間が短すぎる。
ぼくなんかミステリ以外にも浮気しちゃうほうなので、到底無理な話なのである。でもやはり、これだけは押さえておかなくてはいけないという作品はあるだろうから、そういった作品を吟味する意味でも本書のような本を読むことはたいへん勉強になるのだ。
本書で紹介されている入手困難本の中にはいまでは簡単に入手できるものもあるが、それでもまだまだ埋もれた名作が多いのに驚いた。
山口氏の筆は大好きなミステリを語らせたら縦横無尽で、ミステリーのもつ可能性、あらゆるジャンルにみられるミステリー的考察、そして書評と様々な形でミステリの魅力を語りつくしている。
本書を読んでるとミステリ好きの山口氏の嬉々とした顔が浮かんでくる。
しかしこういった本も楽しいのだが、やはり山口氏には「生ける屍の死」みたいな長編本格ミステリを書いてもらいたい。強くそう思う今日この頃である。