読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ピーター・スターク「ラスト・ブレス  ―死ぬための技術―」

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 副題に「死ぬための技術」とあるが、なんのことはないここで描かれるのは死と隣り合わせになった極限状態の人間たちなのだ。本書ではそれを一話づつドラマ仕立てで簡潔に描いてみせる。

 本書に出てくる様々な死の演出は以下のとおり。

 第一章「低体温症」

 第二章「溺死」

 第三章「高山病」

 第四章「生き埋め」

 第五章「壊血病

 第六章「熱射病」

 第七章「墜落死」

 第八章「人類の天敵」

 第九章「潜水病」

 第十章「脳性マラリア

 第十一章「脱水症状」

 おもしろいのは、各話で取り上げられている様々な死へのカウントダウンについて、過去のデータやいったいどのようにしてそれらの症状が死に至らしめるのかというメカニズムを詳細に語っているところ。

 たとえば、第一章の「低体温症」では人間の身体はどこまでの体温低下で死に至るのかを過去の研究成果やデータをもとに明快に解き明かしてゆく。「溺死」の章では酸素の供給が停止してからどれほどの時間で脳が損傷するのか、また溺れてからの酸素の体内の残量を時間の経過と共に詳述する。それらは、裏を返せば死を回避するための貴重なデータだ。一読しただけですべてを頭に叩き込むことは叶わないがそういうことがあるという事実を知るのと知らないのとでは大きな違いがあるように思うのである。

 本書に登場するすべての人物が確実に死ぬわけではない。中には九死に一生をえて生還する人もいる。

 だが、死はいつも隣り合わせだという事実が本書を読むとヒシヒシと伝わってくる。それは無知ゆえに招いた死でもあるし、たまたまめぐり合わせてしまった間の悪いものもある。死に必然はないのだが、必然が死を招くことはある。いつも死は隣り合わせ。それは誰の身にもふりかかることなのである。