読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

北上次郎「新刊めったくたガイド大全」

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 この活字中毒者による1979年から1994年の15年間の読書ガイドは、もっぱら彼の独断と偏見に満ちていて、世の中一般の人たちに通じるかといえばそんなことはないと思う。だが、やはり北上次郎という名を見るだけで、そこそこの読書通は一目置いてしまうのである。

 ぼくもこの人の推薦する本すべてをよしとするわけでなく、なかにはどうも性に合わないと嘆いた本もいくつかあった。本来この人はぼくのもっとも苦手とする冒険(活劇)小説が大好きで、好んでそういう類の本を紹介する。しかし、そんな中にちらほらとぼくの琴線にひびく本が混じってたりするから目が離せないのだ。過去そういう巡り合わせで下田治美「愛を乞う人」、梁石日「子宮の中の子守唄」、岡江多紀「鑑定主文」、山本文緒「パイナップルの彼方に」などのオモシロ本を読んできた。

 本書は『本の雑誌』の名物コーナー『新刊めったくたガイド』の北上パートが一冊にまとまったものである。買うことはないが、ぼくも『本の雑誌』は書店でチェックしている。北上次郎を筆頭に風間賢二や大森望など読書界では一流の目利きたちがオススメする本の情報は大変有益だ。ノーマークだった本が絶賛されてたりすると、いてもたってもいられなくなってしまう。しかし最近は情報が溢れかえっており、ブログの普及もあって、めったくたガイドを読んで「しまったぁ、こんな凄い本を見落としていたかぁ」と臍をかむことも少なくなってしまった。そう思うと、なんだかさみしい気もするのである。

 以前のように目利きの興奮冷めやらぬ筆勢でオモシロ本の存在を知り、身体を熱くした日々が懐かしく思われる。アナログだった時代にも、不便ながらそういった楽しみはあったのだ。

 本書は少なからずそういったアナログ時代の興奮を呼び覚ます力をもっている。

 ぼくも本書を読んで高橋治「名もなき道を」、マーセル・モンテシーノ「大いなる時」、ピート・ハミル「愛しい人」、西村望「修羅の孤島」、島一春「椿坂」、丘真也「水の旅立ち」、石和鷹「クルー」の七冊が非常に気になった。現在までに「名もなき道を」と「大いなる時」は入手したが、他の本はまだ見ぬ存在である。実際読んでみれば、なんだこんなものかと思うのかもしれないが、その本を読むまでの間に流れる時間が無類に楽しい。あれこれ想像したり、期待したり。まるで宝くじを買って当選番号が発表されるまでの間にワクワクしてるときのような気分なのだ。