乱歩はエッセイや評論も数冊残しており、これがなかなかおもしろい。彼は創作では破綻することが多
かったが、この分野では思いのままに筆を運ばせているので、読んでいるこちらの方も活き活きしてく
る。エッセイとしては「悪人志願」、「幻影の城主」、「探偵小説三十年」などが有名だろう。これら
を読むと彼の性癖や探偵小説への情熱、当時の文壇の交友関係や海外作品への憧れなど、夢想癖のある
一人の偉大な偏執狂(これは褒め言葉である)の姿が浮かび上がってきて興味深い。
また、評論としては「鬼の言葉」、「幻影城」などがあり、海外作品の詳細な分析や、国内作品の評価
など、これまた乱歩の探偵小説に対する情熱が溢れかえっていて無類におもしろい。
本書は、そんな乱歩のトリック集成である。探偵小説狂、ビブリオマニアとしての超人的な読書によっ
て蒐集、分類された古今東西のトリックがわかりやすく解説されている。これが読み出すとやめられな
いおもしろさで、どこでもいいからページを開いてみれば思わず読みふけってしまうほどなのだ。
当時すでに探偵小説のトリックは出尽くしたと言われていたらしいが、あの手この手で考え出されるト
リックの多様性には驚かされる。「意外な犯人」、「異様な凶器」、「密室トリック」、「隠し方のト
リック」、「プロバビリティーの犯罪」、「顔のない死体」、「異様な犯罪動機」などなど乱歩の偏執
的な分析によって平易に語られるこれらのトリックはいってみればオーソドックス、現代ミステリ読み
の目でみればヒネリもないし大らかで微笑ましいくらいなのだが、トリック学としては基本中の基本、
これだけは押さえておいてください、といったものばかりなのだ。
自然、本書ではネタばらしが行われており、そういった意味では大変危険な本なのかもしれないが、こ
れはあまり心配しなくてもよい。言及されている作品はかなり有名なものか、いまでは手に入らないよ
うな作品ばかりである。なんら差し支えはない。
しかし残念ながら本書は絶版である。その後、他の出版社から復刊されているかどうかは定かでない。
おそらく出てないと思う。なので、古本屋でみつけられたら、是非手にとってみていただきたい。
ミステリ好きには必読の好著である。
しかし、この表紙は何なんだ?^^。