ぼくは京都に住んでいるのだが、いままで一度も三条商店街に行ったことがなかった。つい先日、ミシュランガイドにも掲載されたという空蝉亭で熟成とんかつを堪能した帰りにブラブラ歩いていて、ここを目にして行ってみたのである。
三条商店街は、西日本最大級の商店街といわれていて、三条の堀川から千本まで800メートルにも及ぶ長さのアーケード商店街なのだそうな。
シャッターが閉まっている店もチラホラあったが、スイーツが目玉のおしゃれなカフェも多くなかなか楽しい散策だった。通りの中ほどに一軒の古本屋があったので思わず入ってみたら、ちょっと変な感じがした。並んでいる本の背表紙に共通ワードを見つけたのである。
「なんか、猫ばっかりやな」思わず声に出して言ってしまった。
「そうなんですよ、ウチは猫と京都の本専門なんですわ」と、奥に座っている店主の老人。
「へー、そうなんや」
これは、あまり期待しちゃいけないなと思いながら、棚を巡る。「吾輩は猫である」の古いのがいくつも並んでいたりする。その中に内田百閒の「贋作吾輩は猫である」を見つけて心躍る。千円かー。ちょっと保留。専門書や絵本や京都が舞台の時代小説なんかをひやかしていると、五味康祐「黒猫侍」という本を見つける。確かに。猫だもんね。これは見たことないなぁと内容読んでみるとなかなかおもしろそう。買うことにする。黒鉄ヒロシ「新選組」も以前読んだけど、なんか手にもってしまう。その次に見つけたのが本書「子猫が読む乱暴者日記」だったのである。子猫か。猫だな。中原昌也は以前「マリ&フィフィの虐殺ソングブック」読みかけて、なんじゃこりゃーと投げだしたことがあったっけ。でも、子猫ちゃんだし、表紙絵は口からなんか出てるし、すっごく薄いし、あまり見かけたことがないし買うことにする。レジにもっていくと「黒猫侍」を手にとって
「ほー、これはめずらしいね」と店主。
「あんまり見かけたことがなかったんで」と答えると、「子猫が読む乱暴者日記」を見て
「えー、ウチにこんな本あったかな?まったく覚えてないわー」などと不穏なことを言う。
しかし、ま、そういうこともあるわなと思い、良い買い物したなと店を後にした。保留中の「贋作吾輩は猫である」を思い出したのは、家についてからである。次に行く時まで、無事そこでぼくの訪れを待ってておくれ。
とまあこんな感じで本書を手に入れたわけなのである。思っていたとおり、読み終わるのはすぐだった。内容は、こんな感じである。
『老人が振り回した棒は、自販機の陰にかくれていた順子の頭にヒットし、彼女は飛び散る鮮血とともに油の浮く水たまりに倒れこんだ。順子は、以前映画館のもぎり嬢をしていて、いわば看板娘としてその界隈で一世を風靡したこともあったが、いまでは蠅のエサである。
老人はいつもの調子でフルスイング、フル回転、三段跳びをくり返しながら、遠ざかっていった。おれはいつの間にか目の前に降りてきた闇を見透かして、世の中をよくする理論を発見しようとしていたのだが、となりで股間に手を伸ばしてくる豊満ななんとかいう女優に似た女に気を散らされて、先っぽをしとどに濡らしている。』
どうよ?