ドキュメンタリーっぽい作りが、いったいどんなおもしろさを引き出してくれるのかと期待して読み始めた。女子大生が一人失踪し、その関係者たちのインタビューが続いてゆく。まず、この本自体がフェイクとして作られていて、すでに最初からこれが第二版だと書かれている。成り立ちも変わっていて、本書の著者であるジョゼフ・ノックスと知り合うことになった作家志望の女性が、この事件について本を書こうと思い立ち、各関係者にインタビューを行い、原稿をおこし、それをノックスにメールで送って感想及び指摘などをしてほしいというやり取りも込みで描写される。その中で、これはノックス自身があとで関係者にインタビューをして付け足した文章だというものも挿入される。
メインは各人のインタビューだ。一人の失踪した女子大生を知る様々な人たち。彼らの証言で浮かびあがる真実。この長いインタビューの中で様々な証言が思惑を込めて描かれる。しかし、そこかしこに不気味な不穏な要素が入ってくる。執着する心がまねく悲劇。
多くの謎が謎のまま残される。それは、本筋とは関係ない部分であったりするのだが、気になる。その余地が多くの奥行きを生み、世界を広げる。イギリスのマンチェスターといういたって長閑なところで起こる事件は、全体から受ける印象でぼくに「ツイン・ピークス」を思いださせた。古い話で恐縮だが、あのドラマの中で事件が起こったあとに、殺されたローラの母親が、二階にあるローラの部屋に娘を呼びに行ったときの情景を思い出す場面があるのだが、ここで描かれる恐怖の演出はいまだにぼくの心に強く印象づけられている。あの衝撃的なドラマシリーズで描かれた雰囲気と本書の雰囲気はぼくの中でかなり強くリンクした。ドラマではローラ・パーマーという女子高生が世界一美しい死体として発見される。本書では失踪だが、こちらも美しい女子大生だ。まわりを固めるその他の人物も一癖も二癖もある人ばかり。見え隠れする不穏さも同じ、ただ「ツイン・ピークス」のほうは、ユーモア要素も数多く含まれていたけどね。
ま、とにかく本書は分量でいえば力作だ。内容的には手放しで絶賛するというほどでもないのだが、最後まで読めたということは、それなりにおもしろかったのだと思う。