読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2007-01-01から1年間の記事一覧

芦原すなお「山桃寺まえみち」

ここに登場する桑山ミラという女の子は、とてもいい奴だ。 くたびれたからという理由で居酒屋「福乃」をたたもうとするおばあちゃんの後を継いで、大学を休学し てしまうところなどなんとも変わった奴だなと思うのだが、そこに集ってくるクセのある面々と繰…

広い座敷

戸を開けると、そこは50畳はありそうな大きな座敷だった。こんなに広い部屋は見たことがなかったので、度肝を抜かれて敷居もまたがずにたちつくしていると 「ささ、どうぞ遠慮なくお入りください」と傍らにいる人が手を差し出した。 呆然としたままそちら…

岡田秀文「秀頼、西へ」

この人の作品はこれが初めてなのだが、かなり気に入ってしまった。 本書で描かれるのはタイトルからもわかるとおり、大阪夏の陣で自害したといわれている豊臣秀頼が厳重な包囲網をかいくぐり西へ、薩摩の島津領へ逃げ延びたという伝説を下敷きにした決死の逃…

シンシア・アスキス他「淑やかな悪夢 英米女流怪談集」

夏はやっぱり怪談だと思って七月末からこの本を読み出したのだが、途中何冊か他の本に浮気したため、読み終えてみればもう初秋だ。なんとも締まりのない話である。 本書は怪談通として知られる三人(倉阪鬼一郎、南條竹則、西崎憲)が選び抜いた英米女流怪談集…

重松清「青い鳥」

「本が好き!」の献本第9弾。 初めて読む重松清である。本書で描かれるのは孤独な中学生たち。8篇の連作となっているのだが、それ ぞれに問題を抱えた中学生が登場する。そんな彼らに『たいせつな言葉』を届けて希望を与える臨時教員 の村内先生。彼は、吃…

野村美月「文学少女と穢名の天使」

このシリーズ、ほんとうに刊行ペースがはやいよね。なのに毎回毎回これだけの質を保っているのだから 作者の野村美月って人は只者ではないと思うのである。 で、今回メインに語られるのは、待ってましたの琴吹ななせちゃんだ。ぼくは、もうこの琴吹さんと心…

ウェンディ・ムーア「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」

本書を読んで感じるのは、一人の男の溢れんばかりの情熱である。それは狂気にも似た熱狂であって、常人の目から見れば常軌を逸していると映っても仕方がないものだ。 しかし、18世紀という暗黒時代に毛の生えたような医療の黎明期にあって、このジョン・ハ…

泥竜退治

ガトマンド城の西南6ジブのところにある霊守の森で生後間もない泥竜の鳴き声がしたという噂が広がり民の懇願が高まるにつれ執政にも支障がでるようになってきたので、やむなく討伐隊を編成して3月3日の早朝に出発した。 神話によれば、泥竜はこの世の汚泥…

古本購入記 2007年8月度

今月は結構買いましたよ。 二十五作品二十七冊も買ってしまった。なかなか盛況である。今回は古本本来の目的である絶版本及び稀 少本の収集よりいかに安く本を手に入れるか?という命題のもと買い漁ったような結果になってしまった が、本の値段がどんどん高…

アルフレッド・ベスター「ゴーレム100」

ベスターの「虎よ、虎よ!」は、まったく期待外れの結果に終わってしまったのだが、晩年に書かれた本書は結構楽しめた。 SF的アイディアとか、過去のSF作品の換骨奪胎とか、ベスター流のSF批評だとかいう小賢しい要素は別にして、この乱痴気騒ぎともい…

リュックの中身

きない村だか、きさい村だかいう何もないような田舎の村のバス停であなたは待っている。 何を待ってるんだろう? バスを待っているのか、人が到着するのを待っているのか、よく思い出せない。 右を見れば田んぼの畦道を少し広くしたような地道がずーっと地平…

イーユン・リー「千年の祈り」

クレストブックスの最新刊は、中国出身の新鋭イーユン・リーの短編集だ。向こうでは『もっとも有望な若手アメリカ作家』に選出されたりして、すごく話題になっているらしい。こういう異文化圏から進出して母国語ではなく英語で作品を書く作家には特に注目し…

ジョン・ダニング「災いの古書」

待望のクリフ・ジェーンウェイシリーズ最新刊の登場だ。前回の「失われし書庫」から三年。今回はわりと早く刊行されたほうだ。だって第二作と第三作のインターバルは七年だったからね。 翻訳ミステリに限って言及するならば、本来飽き性のぼくが飽くことなく…

ジュディ・バドニッツ「空中スキップ」

もう、こういう話が大好きだ。やっぱりアメリカの女流作家はおもしろい。本書には23篇の短編がおさめられている。各編は5、6ページと、とても短いのだが読み応えは充分。 バドニッツの描く世界は、そのまま夢の世界である。奇妙で、残酷で、とても刺激的…

本のタイトルリレー

冴さんから本楽家協会企画の『本のタイトルリレー』が回ってってまいりました。この企画がどういったものかという説明は、もうみなさん仲間内の記事で知っておられると思うので、割愛させていただきます。 冴さんから回ってきたお題は「キスまでの距離 ~お…

吹雪の夜に

悪路を走行するのは得意じゃない。まして、それが猛吹雪の中だなんてまるで悪夢みたいなシチュエーシ ョンだ。フロントガラスに叩きつけられる雪はほとんど塊で視界をふさいでくるので、ワイパーなどもの の役にも立たない。このままじゃワイパー自体がいか…

菊地秀行「腹切り同心 幽剣抄」

こういう短編集って、第三集目ともなると正直飽きてしまうものなのだが、本書に限ってはまったくそんな気配もない。むしろどんどんおもしろくなってくる。まさに驚異のシリーズだ。 本書に収録されている作品は以下のとおり。 第一話「湯治宿」 走る俊輔 第…

多島斗志之「白楼夢 海峡植民地にて」

多島斗志之は以前に「症例A」を読んで、なんという終わり方をする本なんだ!と驚いたことがあった。 もちろんそれは良い意味での驚きではなく、肩透かしという意味合いでである。ラストまでは、なかなか良かったのに、最後の最後であんな終わり方するとは思…

古本購入記 2007年7月度

最近、仕事が忙しいので、めっきり本を読む時間が減ってしまった。これは由々しき事態ですぞ。 自然ブログをする時間もなくて、軽い放置状態である。今現在、一冊感想を書かなければならない本があ るのだが、それも書けずじまいである。 7月も前の月に続い…

マーク・ミルズ「アマガンセット ―弔いの海」

まずこのタイトルに目を惹かれた。アマガンセットとは妙にハートをくすぐる響きだ。でも、いったい何をさす言葉なのかがわからない。おそらく地名なのだろうと見当はつけたが、そんな地名きいたこともない。アイルランドあたりの地名なのかな?と思っていた…

ジョナサン・フランゼン「コレクションズ」

タイトルの「コレクションズ」とは、修正のこと。 現代アメリカの縮図として描かれる一つの家族。内包された小宇宙ともいうべきその縮図の中で、家族はそれぞれ悩みを抱え、鬱屈と倦怠にまみれながらも精一杯生きている。 こう書けば、小難しい印象を受ける…

レナーテ・ドレスタイン「石のハート」

家族全員を一瞬の内に失ってしまったエレン。惨劇は彼女が12歳のときに起こった。いったいエレンの家族に何が起こったのか?惨劇から30年を経てエレンは、あの家をまた訪れる。 とても惹きつけられた。子を持つ親としてちょっと耐えられないショッキング…

マーリオ・リゴーニ ステルン 「雷鳥の森」

イタリア北部の雄大な自然、忘れることの出来ない戦争体験。ステルンの作品集は、アリステア・マクラウドの短編に通じる厳しさと生命の謳歌に満ちて静かな感動を呼びます。地味で荒けずりだけど、だからこそ伝わる真実の姿があります。本書に収められている…

ゲイル アンダーソン=ダーガッツ 「 雷にうたれて死んだ人を生き返らせるには」

第二次大戦下のカナダ西部の農場を舞台にした物語ということで、『大草原の小さな家』みたいな牧歌的な、やさしい物語なのかなと思って読んでみたら、とんでもない。本書は、なかなか異質な家族の物語でした。 主人公であるべスの十五歳から十六歳にかけての…

誼阿古「クレイジーフラミンゴの秋」

先に紹介した「クレイジーカンガルーの夏」のスピンオフ作品ということで、舞台も同じなら、登場人物 もほぼ同じで今回は女の子が主人公である。 しかし個人的な好みからいえば、今回の作品のほうが断然良かった。相変わらずぎこちない部分が目につ き読みづ…

五つの掌編

【シーン1】 「嗅覚を刺激されると起こるんだって」 「というと?」 「たとえば、臭い匂いとか酸っぱい匂いとか、いわゆる刺激の強い匂いだね」 「ふ~ん、そうなんだ」 「だから、さっきはあんなことになったってワケだね」 「うん、よっぽどキツかったん…

平山夢明「ミサイルマン」

話題作となった前回の短編集の勢いを借りて、大いなる期待のもと出版された本書なのだが、いかんせん二番煎じの感がぬぐえない仕上がりとなっている。どうも路線が微妙になってきたというか、相変わらず血と粘液にまみれたナスティなお下劣さは健在なのだが…

マイケル・ホワイト「五つの星が列なる時」

まず驚いたのが本書の著者マイケル・ホワイトがトンプソン・ツインズのメンバーだったということ。 ぼくの知ってるトンプソン・ツインズは三人編成だったが、その中にはいないようなので、三人編成になる前に在籍していたのかな?ま、とにかくなかなか才気活…

笹生陽子「ぼくは悪党になりたい」

これは良かった。いまは文庫になったが、ぼくが読んだのは単行本の時だ。オビには北上次郎の推薦の言 葉が書かれているし、これは買いでしょうってんで読んでみたのだ。 主人公のエイジは腹違いの弟がいる普通の高校生。しっかりしているんだけど、やっぱり…

デイヴィッド・マレル「真夜中に捨てられる靴」

マレルの短編にハズレなしと勝手に思い込んでいるぼくにとって、うってつけの本が刊行された。 本書のタイトルを見たときに「?」と思った。「真夜中に捨てられる靴」とは、過去にこのブログでも再三言及してきたあの「リオ・グランデ・ゴシック」と非常に似…