ここに登場する桑山ミラという女の子は、とてもいい奴だ。
くたびれたからという理由で居酒屋「福乃」をたたもうとするおばあちゃんの後を継いで、大学を休学し
てしまうところなどなんとも変わった奴だなと思うのだが、そこに集ってくるクセのある面々と繰り広げ
られるなんともおかしいドラマをみてると、ほんとこのミラちゃんはいい奴なんだなぁと思えてくる。
なにより彼女は、一本筋が通っている。女子大生というお気楽な立場を享受せず、そこはかとなく自らを
律している姿がすがすがしい。かといって、ストイックなわけでもなく適度にダラけていたりもするのだ
が、それがまた人間味を感じさせてプラス効果なのである。
本書はいわば群像劇のようなものだ。様々な人が登場し、それぞれが絡み合いミラを中心として物語が進
んでいく。どうしてこれがドラマ化されなかったのかと不思議に思うくらい、テレビドラマにうってつけ
のお話だった。
物語の登場人物にはもちろんのこと作者自身が投影されているわけなのだが、それが異性の場合うまく反
映されていると、とても魅力的な人物となる。そういった点で本書の桑山ミラは非常に魅力に富んだ人物
となっている。どっしりしているというか、肝が据わっているというか、とにかく彼女は頼られる存在で
あり、老若男女問わず誰からも慕われるという幸せ(?)な境遇にある。
また読者との距離間という観点でみれば、本書に登場する面々はとってもクセがあるにも関わらず、非常
に読者に近しい存在である。だからこそ、親しみがもてる。なぜならば、そこに自分たちがいるからだ。
ただひとつ難点をいえば、その語り口が少々オヤジ臭いところだろうか。オヤジでもあるぼくが言うのも
おかしいが、これにはちょっと閉口した。
しかし、スルスルと読めてしっかり満足させてくれた本書はなかなかのめっけもん。これからも芦原作品
はどんどん読んでいこうと思う。でも、なぜかデビュー作の「青春デンデケデケデケ」だけは読もうとは
思わないんだなぁ。