読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2007-01-01から1年間の記事一覧

甘党アニキとオレ

口に頬張った洋菓子は、あふれ出る唾液と共に咀嚼されグチャグチャといやらしい音をたてた。 ゆっくりと首を回しゴキゴキと音をたて、口のまわりにクリームをつけた男はこう言った。 「せやから言うたやろ?お前やっぱりあかんやろうって。おれの言うことに…

本谷 有希子「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」

この人最近注目されてるの?不勉強でまったく知りませんでした。タイトルがおもしろかったので、なん となく手にとってしまったが、これ結構いいんじゃないの? 本書で描かれるのは、確執だ。家族という小さなコミュニティで起こる愛憎劇だ。人間の本質とし…

ジュリー・オリンジャー「溺れる人魚たち」

海外、特にアメリカの女流作家の短編集が結構好きだったりする。『アメリカの悲劇』を独特の筆勢であぶりだす「銀の水」のエイミー・ブルームや、奇妙で非現実な設定を用いながらも、そこに厳しい現実に晒され孤独に陥る少女たちを見事に活写した「燃えるス…

永瀬隼介「永遠の咎」

この人の本を読むのは、本書が初めてである。文庫本で525Pって結構な厚みだ。それに、このくらいの厚みが一番購買意欲をソソる。作者の語りたいことがこんなにあるということは、それだけ思い入れがある上に作者自身も興が乗ったに違いないと思ってしま…

古本購入記 2007年6月度

恒例の古本購入記なのだが、このところ月をおう毎に購入する冊数が減ってきている。もしかしたら、も う打ち止めに近づいてるのか、なんて思ってしまうのは杞憂だろうか?それともただ目につく本がないだ けで、世の中にはもっと多くの購入意欲をソソる傑作…

福田栄一「エンド・クレジットに最適な夏」

「本が好き!」の献本第7弾。 デビュー作の「A HAPPY LUCKY MAN」がことのほかおもしろく、この人はミステリも書ける人なんじゃないかと思っていたら、やはり出ました。それも老舗の東京創元社のミステリ・フロンティアからである。そうかと…

サラ・ウォーターズ「夜愁」

「本が好き!」の献本第6弾。 サラ・ウォーターズの本は初めてである。話題になっていた「半身」も「荊の城」もなんとなく読まずにきてしまった。でも、本書を読んでかなり焦ってしまった。やっぱり読んでおくべきだったのだ。 本書には、そう思わせるだけ…

五十嵐貴久「交渉人」

おもしろかった。タイトルからもわかるとおり、本書の主人公はネゴシエイターである。コンビニ強盗をした若者三人組が逃亡の途中で病院に逃げ込み、患者や当直の医師や看護士を人質にとって立て篭もってしまう。警視庁警備部警護課特殊捜査班課長代理の石田…

言霊

つぶやきは誰の耳にもとまらず ひんやりした風に乗って、どこかへとんでいってしまった こうして、言葉は思惑を包んだまま 世界のどこかへ運ばれる やがて、それが萌芽となって 小さな死や 誰かの思いつきや 目に見える奇跡となって 実をむすぶ 言葉は生きて…

三津田信三「首無の如き祟るもの」

三津田氏の作品は初めてである。デビュー当時から見知ってはいたので、どんな作風かはある程度予測はできた。ぼくの記憶に間違いがなければ、確かこの人講談社ノベルズでデビューしたんだよね? ホラー系だとはわかったけど、どうも食指が動かなかった。今回…

山田正紀「阿弥陀(パズル)」

ぼくにとって鬼門である山田正紀なのだが、本書はシンプルな謎と藤田新策の表紙に惹かれて、ついつい手にとってしまった。 そう、本書の謎はまことにシンプルだ。十五階建てのビルから人間が一人消失してしまうのである。ビルには監視カメラが多数設置されて…

更新遅延のお知らせ

最近、公私ともに忙しくなってきたので、平日毎日更新ができなくなってしまいました。 これからは、不定期に更新していきますのでよろしくお願いします。

夢枕獏「遥かなる巨神」

夢枕獏の二冊目の短編集が本書「遥かなる巨神」である。この頃の獏さんは、デビュー間もないこともあって意欲的にいろんな作品を書いていたみたいで、この短編集に収められている9編の作品もそれぞれ趣向を変えた作品となっている。収録作は以下のとおり。 …

和風ウィンチェスター・ハウス

「南向きの窓がたいそう良うございます」 年季のはいったばあさんは、シワと同化した目で笑いながらそう言った。南向きだから良いのか、南向き の窓から見える景色がいいのか、いったい何がどういいんだろう?と考えながら部屋に入ると、ばあさん の言ってい…

樋口有介「ともだち」

これはいままで読んだ二冊とは少し感触が違った。なにしろ主人公である女子高生、神子上(みこがみ)さやかは、剣の達人なのである。時代小説好きなら神子上という苗字を見てピンとくるかもしれないがなにをかくそうさやかの流派の始祖は、あの神子上典膳な…

古本購入記 2007年5月度

はやいもので、前回の購入記からもう一カ月たってしまった。光陰矢のごとしというけれど、ホント時の たつのははやいねぇ。最近は一日でさえ、すぐ過ぎてしまう。こういう感覚にとらわれやすくなったとい うことは、ぼくも歳をとったということだろうか。と…

マイクル・クライトン「ジュラシック・パーク」

この作品は映画の方が有名なので、誤解されてる部分があるかもしれない。本書を読んでこの作品のおもしろさを充分承知しているぼくでさえ、いまではこの作品を軽々しく認識している部分がある。それもこれも映画の印象が強いゆえ、メディアに商品化された作…

金原ひとみ「ハイドラ」

またまた「本が好き!」の献本である。 金原ひとみの本を読むのは、本書が初めてだ。どちらかというとこの人よりお父さんの金原瑞人氏のほう がお世話になっている^^。いままでこの人の本を手に取らなかったのは、過激な描写が多そうだなと感 じたからだ。…

桐生祐狩「小説探偵GEDO」

図書館でたまたま見つけて『小説探偵』という文字に惹かれて読んでみた。小説内に入り込む話といえばジャスパー・フォードの「文学刑事サーズデイ・ネクスト」を思い出すが、本書もあれに想を得て書かれたのだろうか? 本書は短編連作形式で話がすすめられる…

M・スラング編「レベッカ・ポールソンのお告げ」

文春文庫から出てたホラー・アンソロジーである。 簡単に各編の寸評いってみよう。◆ スティーヴン・キング「レベッカ・ポールソンのお告げ」 これを読んであの「トミー・ノッカーズ」がかなり不気味な作品だったんだなぁということに気づいた。この短編はあ…

おばあちゃんのこと

ぼくの母方の祖母は、現在102歳か103歳になっている。歳がはっきりしないのは、誕生日が二つ あるからだ。誕生日も二つなら、名前も二つある。通常はこちらという風に決めてあるようだが、実際 のところどれがほんとうなのか誰にもわからない。明治の…

鈴木光司「仄暗い水の底から」

水、特に海から得られるイメージは、明るく爽快で開放的なものである。 だが、それと同じくして背中合わせに、暗くてどんよりして密閉的なイメージも孕んでいる。明と暗。昼と夜の違いで、これほど印象が変わるのも海が生きている証拠である。 本書に収録さ…

ウィリアム・ディール「真実の行方」

この人は最初、冒険小説家としてわが国に紹介された。それらはすべて角川から出版されていた。 それほどブレイクはしなかったが、玄人筋には割りと評判がよかったように記憶している。そんなディールがサイコサスペンスで一躍脚光を浴びたのが本書「真実の行…

栗本薫・選「いま、危険な愛に目覚めて」

栗本薫愛するところの『耽美小説』ばかり集めたアンソロジーである。 これは日本ペンクラブが編纂していたアンソロジー集「日本名作シリーズ」の一冊であり、現在でも売られているのかどうか知らないが、それぞれのテーマをもったアンソロジーがその分野に明…

G・ガルシア=マルケス「わが悲しき娼婦たちの思い出」

久しぶりにマルケスを読んでみた。彼の最新作である。どうやらこの小説は川端康成の「眠れる美女」に触発されて書かれたものらしい。それはそれでいいのだが、この小説を書いたとき、マルケスが77歳だったということに驚いてしまう。内容も、かの小説を元…

魂泥棒 その2

おばあさんはニタッと笑うと、人差し指を上に向けてクイクイと手前に折った。こっちへ来いということ らしい。ぼくは正座をしたまま、両手を使ってすり寄った。 眼前に迫るシワくちゃのおばあさんの顔は正視にたえないが仕方がない。ぼくは縋る思いで、おば…

魂泥棒 その1

◆ 今回の夢はいつになく長いので、今日と明日の二回に分けてお送りいたします。 魂泥棒が出没するとても危険な世界である。誰もがいつ魂を盗られるのかと、おびえて暮らしている。 ぼくも、怖くて怖くて仕方がない。だから物知りばあさんの家まで行くことに…

宮部みゆき「R.P.G」

これってあんまり評判良くないのかな?ぼくは大好きなんだけど。 本書は2001年の夏に文庫書き下ろしで刊行された。文庫書き下ろしという形式が、彼女としてはめずらしい試みだったと記憶している。長編ではあるがほんとに短い作品で、数時間で読めてしま…

イアン・マキューアン「セメント・ガーデン」

原書が刊行されたのが1978年。その翻訳が出たのが2000年である。この間20年以上のひらきがあるのはなぜだろう?その一因にはマキューアンのわが国内での認知度という問題もあったろうし、出版社の事情もあるかもしれないのだが、一番の要因はやは…

有川浩、角田光代その他「Sweet Blue Age」

こんな本が角川から出てたとはね。う~ん、まったく知らなかったぞ。ここに収録されてる作家陣の顔ぶれは結構豪華なんじゃないの?ここで収録作を紹介しておこうか。 ◆ 角田光代 「あの八月の、」 ◆ 有川 浩 「クジラの彼」 ◆ 日向 蓬 「涙の匂い」 ◆ 三羽省…