読書の愉楽

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平山夢明「ミサイルマン」

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 話題作となった前回の短編集の勢いを借りて、大いなる期待のもと出版された本書なのだが、いかんせん二番煎じの感がぬぐえない仕上がりとなっている。どうも路線が微妙になってきたというか、相変わらず血と粘液にまみれたナスティなお下劣さは健在なのだが前短編集に感じられたような狂気と紙一重の輝きはあまり感じられなかった。

 そんな中でも巻頭の「テロルの創世」は『輝き』が感じられた作品だった。これは平山版「わたしを離さないで」である。しかしとんでもなく醜悪な面を露呈しているところが平山オリジナル。だが、その下劣の向こうに垣間見える静謐ともいえる詩情が『輝き』として身内に沈殿してゆく。ここらへんの呼吸はやはりこの人でしか味わえないところだ。物語のラストが真の終りでなく、まだ広がっていくところなどなんて気風がいいんだと惚れ惚れしてしまう。これは傑作だ。

 「Necksucker Blues」と「けだもの」はそれぞれ往年のホラー・モンスターを描いた作品だ。この人こういうのも書くんだなと思ったがオリジナリティがイマイチ感じられなかったのが残念。

 これではただのグロい話ではないか。

 「枷」はちょっと惜しい作品。着眼点は素晴らしい。でも欲をいうようだが、もっと突き抜けて欲しかった。こういう話はこの人でしか書けないものだと思う。まさに本物なんじゃないかと思ったりもした。にも関わらずラストが凡庸で締まりが悪い。二人称で書かれているのも、企画倒れに感じられた。

 「それでもおまえは俺のハニー」は、この人の悪い面が完全に露呈した作品。これは苦労したんじゃないかと思う。物語が波に乗ってない。

 「或る彼岸の接近」は、めずらしくオーソドックスな幽霊屋敷物だった。狂気におかされる過程がジワジワと描かれていて、なかなかの雰囲気。イメージも悪くない。まさにラヴクラフト的物語展開。でも、その縛りがあるために平山オリジナルがあまり感じられなかった。悪くない作品なのに、これを平山夢明が書いたということで減点になってしまった。

 表題作「ミサイルマン」は、あまり語れない作品だ。語るべき要素がない。ドライブ感は買うが、ちょっと安易な作りが鼻についた。平山オリジナルは其処此処で感じられるのだが、もうこっちは彼の毒にやられてしまっているのだからシリアルキラーもってこられてもなんとも思わなくなってしまっているのだ。

 自分でいうのもなんだが、どうも前回の短編集がいたってお気に入りになったゆえ、全体的にかなり辛辣な評になってしまった。でも、これは平山夢明へのぼくなりの愛情表現だ。彼の書く異形の物語は、こんなものじゃない。もっとすごいはずなのである。ぼくはそれを信じて彼の本をこれからも読んでいく。

 きっと、ちびっちゃうくらいスゴイ本を読ませてくれるはずだと過度の期待をかけながら、これからも彼の本は読んでいこうと心に誓っているのである。