読書の愉楽

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マーク・ミルズ「アマガンセット ―弔いの海」

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 まずこのタイトルに目を惹かれた。アマガンセットとは妙にハートをくすぐる響きだ。でも、いったい何をさす言葉なのかがわからない。おそらく地名なのだろうと見当はつけたが、そんな地名きいたこともない。アイルランドあたりの地名なのかな?と思っていたら、アメリ東海岸に実在する地名だということがわかりさらに驚いた。

 

 本書はミステリである。アマガンセットの沖合いで漁師が若い女性の死体を引き上げるところから物語は始まる。時代は1947年。終戦間もない頃の話だ。女性の名はリリアン・ウォーレス。大金持ちである実業家の父を持つ上流階級の若く美しい娘。

 

 物語はこの娘の死体を巡って様々な人々の思惑と確執を孕んで、大きくうねりだす。

 

 検死の結果、溺死と判定されたこの死体は自殺なのか、他殺なのか。

 

 ここに登場する本書の主人公は二人。死体を引き上げた漁師のコンラッド・ラバルドと警察署副署長のトム・ホリス。彼らはそれぞれ独自の方法でリリアンの死の真相に近づいてゆく。

 

 簡潔に説明すれば、本書はそういうミステリだ。たった一人の死体を巡って物語は始まり終焉を迎える。

 

 しかしそこにはアマガンセットの歴史が語られ、コンラッドの戦争体験が語られ、ホリスの日常が語られる。人間関係の中に逡巡や誤解、感傷や悲哀を描き出し上下巻であるにも関わらず、飽きさせることなく物語を紡いでゆく。そういう手腕はたいしたものだ。

 

 だが、本書には難点もある。これは訳のせいか校正のせいか判断がつかないのだが、どうも文章のぎこちなさが目立っていた。別に美しい日本語でなければまったく受けつけませんって柄でもないので、文章に関してそんなに目くじらたてる人間ではないのだが、どうも本書の訳文にはしっくりこないところが多かったように思う。そうなってくると、いったいぼくは作者の意図するところを正確に汲み取っているのだろうか?なんて疑問を持ちながら読んでいくことになる。するとただでさえ少ない集中力が散漫になり、物語に没頭できなくなってくるという悪循環に陥ってしまうのだ。

 

 というわけで手放しで褒める類の本ではないが、内容的には結構いい線いってたと思うので、この作者はこれからも注目していきたいと思う。だってコンラッドがもし自分だったらって考えると、こんな目にあったとしたら、ちょっと立ち直れないよ。ここに描かれている事件はそれほど残酷でやりきれない話なのだ。