読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ゲイル アンダーソン=ダーガッツ 「 雷にうたれて死んだ人を生き返らせるには」

 

雷にうたれて死んだ人を生き返らせるには

 第二次大戦下のカナダ西部の農場を舞台にした物語ということで、『大草原の小さな家』みたいな牧歌的な、やさしい物語なのかなと思って読んでみたら、とんでもない。本書は、なかなか異質な家族の物語でした。

 

 主人公であるべスの十五歳から十六歳にかけての一年間が描かれているのですが、その内容がかなり過酷なものになっています。死や狂気、そして思春期におとずれる性への芽生えがあちこちに顔を出し、またそれがかなり衝撃的でした。でも、べスの視線は揺るぎません。事実をしっかりと受け止め、それを糧に成長してゆくんです。過酷な状況が、自立を促している。人間とは、強いものなんだなあと思いました。と、ここで残酷な面ばかり強調してきたことに気づいたので、本書のもう一つの魅力である《マジックリアリズム》についても書いておきましょうか。作者が本書を執筆するにあたって、母や祖母に取材したという当時の伝承や風習が、本書には色濃く反映されています。それは、タイトルをみてもわかるように、とんでもないものから素朴なパンケーキのレシピにいたるまで種々雑多。まことに楽しい。巻末には、本書のどのページにそれらのレシピや療法、生活の知恵が書かれているのか索引までついています。
当時のカナダは、ラテンアメリカに匹敵する魔術大国だったんですね。
というわけで、なかなか心に残る一冊でした。オススメですよ。