待望のクリフ・ジェーンウェイシリーズ最新刊の登場だ。前回の「失われし書庫」から三年。今回はわり
と早く刊行されたほうだ。だって第二作と第三作のインターバルは七年だったからね。
翻訳ミステリに限って言及するならば、本来飽き性のぼくが飽くことなく追い続けているシリーズが三つ
ある。ここでも紹介しているドン・ウィンズロウのニール・ケアリーシリーズとR・D・ウィングフィー
ルド のフロスト警部シリーズ、そして今回紹介するジョン・ダニングのクリフ・ジェーンウェイシリー
ズの三シリーズだ。もちろんそれぞれ魅力は違うのだが、この三シリーズだけは出れば無条件に読んでし
まう。はっきりいって、もうメロメロなのだ。
今回扱われるのは、サイン本である。ミーハーなぼくにとっても非常に興味ある題材だ。逆にいえば、本
書で扱われる薀蓄はそれだけだから、古書に関する薀蓄を期待するとちょっと期待ハズレかもしれない。
しかし、やはりこのシリーズは読ませるのである。本書の雰囲気は第二作「幻の特装本」と非常によく似
ている。そう、あのロス・マク風味が復活しているのだ。ここで描かれる悲劇は妻の夫殺し。
詳しく書くと長くなるので割愛するが、舞台となる辺鄙な町の設定から、複雑な家庭環境から、一筋縄で
はいかない事件の真相まで、たった一つの殺人事件を追って550ページもの長丁場をまったくダレるこ
となく描ききったダニングに拍手を送りたい。
今回クリフは、前作「失われた書庫」で知り合った弁護士エリン・ダンジェロの助手として活躍すること
になるのだが、相変わらずうまい立ち回りを見せてくれる。警官時代に培った直感をたよりに、後先考え
ず行動するところなどは決して褒められた行動ではないのだが、それさえ理にかなった行いに見えてくる
から不思議だ。はっきりいって、もうこの男に心底惚れ込んでしまっているのだろう。
ラストに近づくにつれての盛り上がりは、シリーズ全体を通してもかなりエキサイティングだ。今回の事
件は単純な妻の夫殺しであり、第一容疑者である妻自身も自分が殺したと自供している。とてもシンプル
な事件だ。だが、真相を探るうちに様々な可能性が浮上してくる。いったいどれが真相なのか?
浮きつ沈みつしてなかなか表層に出てこない真相。数々の断片が合わさって大きな事件のパズルが完成す
るとき、あの「さむけ」で感じたような鳥肌が立つ思いを味わった。
本書はハードボイルドミステリとしてシリーズ中、一、ニを争う出来栄えとなっている。
約束しよう。ラスト50ページは誰もがページを繰るのももどかしい思いを味わうことだろう。
やっぱりこのシリーズたまらないなぁ。