読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

五つの掌編

【シーン1】

「嗅覚を刺激されると起こるんだって」

「というと?」

「たとえば、臭い匂いとか酸っぱい匂いとか、いわゆる刺激の強い匂いだね」

「ふ~ん、そうなんだ」

「だから、さっきはあんなことになったってワケだね」

「うん、よっぽどキツかったんじゃないかな?おれらもかなり堪えたでしょ?」

「うん、うん、キツかったぁ。だって、目から涙があふれてきたもん」

「とりわけ野口がスゴかったでしょ?」

「あー、あれは、びっくりしたね」


【シーン2】

「気持ちの整理がつかないの」

「でも、これはどうしょうもないことだから・・・」

「頭では理解してるつもりなんだけど」

「心で納得してないってこと?」

「かなぁ?」

「じゃあ、こう考えればどうだろ。ほら、昨日見たテレビでアサリのこと特集してたでしょ?」

「あー、あの辛気臭いっていってチャンネル変えたやつ?」

「うん、あの番組でさぁアサリの生態について東北大学の教授がアメリカの国民総生産の例を出して言っ

てた言葉覚えてる?」

「ううん」

「えー!一緒にみてたじゃん!」

「だって、そんとき急に大雨降ってきたから、洗濯物取り入れてたもん」

「あっ、そうか!」


【シーン3】

「普段からこうなの?」

「え?」

「だから、普段からこんな格好してるのか?って訊いてるの!」

「はい、いつもこの格好です」

「ふーん、そうなんだぁ」

「はい」

「じゃあ、いつも尻尾つけてるんだ?」

「え?」

「ほら!お尻のとこにぶら下がってるやつだよ!それ、尻尾でしょ?」

「あ、はい。そうです」

「どうして、そんな変わった格好してるわけ?」

「え?」

「あー、もう!なんでいちいち聞き返すんだよ!」

「え?」


【シーン4】

「怖い?」

「はい、とっても」

「痛くしないから、大丈夫だよ」

「でも、初めてのときって痛いんでしょ?」

「そりゃあ、多少はね」

「痛いのイヤです」

「だから、こういうことは経験者の腕がものを言うんだよ」

「え?そうなんですか?」

「うん、ぼくに任せときなって」

「ほんとに信じていいんでしょうか?」

「当たり前じゃないか。ぼくが君をいじめて喜ぶタイプに見える?」

「はい」


【シーン5】

アスファルトが割れて足がズブズブ沈んでいくんです」

「それは大変だ」

「はい、でもどうしょうもないんです」

「しかし、なんらかの対処法はあるはずだよ」

「ほんとですか?」

「まずは、運転だな」

「は?運転というと?」

「車だよ」

「はい」

「きみ、免許持ってるよね?」

「ええ、一応」

「じゃあ、そこから始めよう」

「いったいどういうことでしょう?」

「とにかく車もってきて」

「いま?」

「もちろん」

「でも、最近はあまり運転してないんです」

「どうして?」

「どうも気持ちが浮き立ってるから、スピードが出なくて・・・」

「そこにも影響が出てるんだね?」

「はい。どうも、そのようで」