家族全員を一瞬の内に失ってしまったエレン。惨劇は彼女が12歳のときに起こった。いったいエレンの家族に何が起こったのか?惨劇から30年を経てエレンは、あの家をまた訪れる。
とても惹きつけられた。子を持つ親としてちょっと耐えられないショッキングな内容だったが、共感できる部分も多々あった。力不足ながら、妻と子の間で板ばさみになる父フリッツの姿なんて我が身のように感じてしまった。
語り手のエレンは被害者であり、残された遺族でもある。これ以上の悲劇はないだろう。彼女が直面する惨劇の場面が頭から離れない。幼い彼女が母親の異変を感じとって凶兆におびえ、なのにどうにもできなくて無情に流されていくところなど心が痛んだ。
女性、それも母性が持つ心身的なバランスの微妙な変化、妊娠によるホルモンの変化、それらがもたらす精神の異常。いまでは中学生でも知っているこんなマタニティ・ブルーの知識が、およそ三十年前には解明されていなかったって事に驚いた。この作家の作品はもう翻訳されてないみたいだが、次がでたらまた読んでみたい。オランダの作家は初めてだったが、とてもよかった。オススメです。