まず驚いたのが本書の著者マイケル・ホワイトがトンプソン・ツインズのメンバーだったということ。
ぼくの知ってるトンプソン・ツインズは三人編成だったが、その中にはいないようなので、三人編成になる前に在籍していたのかな?ま、とにかくなかなか才気活発な人であるらしい。
そんな彼の小説デビュー作が本書「五つの星が列なる時」なのである。
本書はいわゆる歴史オカルトミステリーの部類に分類される作品で、デビュー作としては健闘しているほうじゃないかと思う。
本書のミステリの要となるのは錬金術だ。まあ、それだけだとあまり読む気はおきないのだが、本書にはそこにアイザック・ニュートンが絡んでくる。ぼくは不勉強でまったく知らなかったのだが、ニュートンは錬金術にも傾倒していた生粋のオカルティストだったのだそうだ。本書ではそのニュートンが登場するパートと現代の連続殺人が起こるパートが交互に語られる。
知と歴史の街オックスフォードで若い女性の惨殺死体が発見される。咽喉を耳から耳まで切り裂かれ、開腹された遺体からは心臓が取り去られていた。続いて起こる第二、第三の殺人。それぞれ同様に若い女性が惨殺され、臓器の一部を持ち去られていた。奇妙なのは、どの死体にもコインが置かれていたこと。
いったいこれらの殺人とニュートンの錬金術がどういう風に絡み合っていくのか?
はっきりいって「ダ・ヴィンチ・コード」のようなめくるめく知的興奮は得られない。その方面を期待すると肩透かしだ。歴史的事実に基づいて描かれる錬金術の世界はあまり核心には迫らない。
その点では「ダ・ヴィンチ・コード」のカタルシスには到底及ばない。だが、オックスフォードで繰り広げられる犯行の動機をめぐるミステリはそこそこ読ませる。無惨な死体から持ち去られた臓器。錬金術と占星術に基づいて定められた犯行日時。オックスフォード大学に連綿と続く秘密の組織。
軽く読めるミステリとしてなかなか楽しめた。ミステリ史に残る傑作ではないが、ひとときの知的遊戯としては及第点ではないだろうかと思う。