読書の愉楽

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ジュディ・バドニッツ「空中スキップ」

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 もう、こういう話が大好きだ。やっぱりアメリカの女流作家はおもしろい。本書には23篇の短編がおさめられている。各編は5、6ページと、とても短いのだが読み応えは充分。

 バドニッツの描く世界は、そのまま夢の世界である。奇妙で、残酷で、とても刺激的だ。よくまあ、これだけ奇妙なことを思いつくものだと感心した。

 だって、本書の巻頭作品「犬の日」の一行目を読んで、驚かない人はいないだろう。

『犬の着ぐるみを着た男が、ドアの外でクンクンと鳴く』

 ね?いったいどんな話が広がっていくんだろうと思ってしまうはずだ。言い換えるなら、小説好きならこの一行目を読めば絶対続きを読んでみたくなるはずである。

 奇妙な世界といえば、真っ先に思い浮かぶのがエイミー・ベンダーなのだが、バドニッツの作品はまた少し違った感触だった。エイミー・ベンダーは奇妙で、ある意味グロテスクともいうべき事象を描きながらも、そこに都会に住む人や自分を見失った人の切実な孤独感を浮き彫りにし、読む者に痛いほどのせつなさを味わわせてくれた。奇妙でありながらも、現実世界にはびこるリアルな感情を直球でぶつけてきた。

 その点バドニッツは、もっとふっきれているといえる。彼女の描く世界に感傷やせつなさはない。そういったものは極力排除されている。中には感情を揺さぶられる作品、例えば「パーマネント」なんて傑作もあるが、総じて彼女の描く世界はアメリカ南部のトールテールに連なるまったくもって巧妙な法螺話なのだ。中でも傑作だったのが「イェルヴィル」。彼女の家に招かれたボーイフレンドが語るイェルヴィル(絶叫町)での奇妙な生活。これはおもしろかった。映画にすればさぞや素晴らしい作品になるのではないかと思う。おおいに楽しませてもらった。

 他の作品もおしなべてみな好感触。はっきりいって嫌いな作品は一つもなかった。印象に残った作品を挙げるなら「犬の日」、「イェルヴィル」、「アベレージ・ジョー」、「百ポンドの赤ん坊」、「本当のこと」、「お目付け役」、「バカンス」、「スキンケア」、「電車」、「パーマネント」、「焼きつくされて」、「ハーシェル」の12作品。いずれ劣らぬ傑作ばかりだ。う~ん、まだまだアメリカには見過ごすことの出来ない作家が数多く存在するんだろうなぁ。そう思いはじめると、なぜか不必要に焦る気持ちになってしまう作品集だった。ほんと見過ごさなくて良かった良かった。