読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

マーリオ・リゴーニ ステルン 「雷鳥の森」

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 イタリア北部の雄大な自然、忘れることの出来ない戦争体験。ステルンの作品集は、アリステア・マクラウドの短編に通じる厳しさと生命の謳歌に満ちて静かな感動を呼びます。地味で荒けずりだけど、だからこそ伝わる真実の姿があります。本書に収められている12編の作品すべてがステルンの実体験に基づいて書かれています。自らを小説家ではなく、事実のみを語る『語り部』だという彼の言葉通り、すべての作品において装飾や手法は一切使わずあくまで簡素に、余分な説明をはぶき、あった事見た事をそのまま文章に綴っていきます。

 

 印象に残るのは、極寒の森での狩猟の場面。解禁を待ち大物のキバシオオライチョウをもとめ山に分け入る男たち。身を切る寒さはハンパじゃない。白く凍りつく荒い息遣い。躍動する筋肉。ピンと張りつめる緊張感。狩りなど経験したことのないぼくでさえその臨場感に圧倒されました。そして作品全体を静かな黒い影で覆う戦争が残した心の傷。本書を読んで人間としての誇り、狡猾な自然の荒々しさ、そしてその中で生きていく充実感を得ました。オススメです。