読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外文学(その他)

レナーテ・ドレスタイン「石のハート」

家族全員を一瞬の内に失ってしまったエレン。惨劇は彼女が12歳のときに起こった。いったいエレンの家族に何が起こったのか?惨劇から30年を経てエレンは、あの家をまた訪れる。 とても惹きつけられた。子を持つ親としてちょっと耐えられないショッキング…

マーリオ・リゴーニ ステルン 「雷鳥の森」

イタリア北部の雄大な自然、忘れることの出来ない戦争体験。ステルンの作品集は、アリステア・マクラウドの短編に通じる厳しさと生命の謳歌に満ちて静かな感動を呼びます。地味で荒けずりだけど、だからこそ伝わる真実の姿があります。本書に収められている…

G・ガルシア=マルケス「わが悲しき娼婦たちの思い出」

久しぶりにマルケスを読んでみた。彼の最新作である。どうやらこの小説は川端康成の「眠れる美女」に触発されて書かれたものらしい。それはそれでいいのだが、この小説を書いたとき、マルケスが77歳だったということに驚いてしまう。内容も、かの小説を元…

G・ガルシア=マルケス「エレンディラ」

ラテンアメリカではなんでも起こる。 空から年老いた天使が落ちてくるし、海の底にはもうひとつ都市があるし、指先ひとつで病を治す人がいるし、雲に向かって銃を撃ち、雨を降らそうとする人がいたりする。 およそ普通じゃない状況がさらりと語られる。みん…

イザベル・アジェンデ「天使の運命」

ぼくにとってアジェンデの「精霊たちの家」は、世界最高の物語だった。ラテン・アメリカの素地を活かし、マジック・リアリズムの世界と豊かな物語世界が絶妙に融合した傑作だった。あの感動を再び味わいたくて本書を読んだのだが、こちらは少し軽めの作品だ…

アンリ・トロワイヤ「クレモニエール事件」

物語の切り口が新鮮だ。冤罪裁判の判決が出てから動きはじめる物語なんて、いわばクライマックスが済んでしまってるみたいなものだ。いったい、この後どう話が続いていくのだろうと興味津々だった。これは皮肉な話だ。良い結果がすべてを悪い方向に導いてい…

アンリ・トロワイヤ「サトラップの息子」

トロワイヤといえば歴史物というイメージしかなったが、こんなに素晴らしい小説も書いていたのだ。本書以前に読んだトロワイヤの本といえば「イヴァン雷帝」だけだったので、ほんとに本書の完成度には目を瞠った。本好きには、ググッとくる内容で、本書の主…

ヨナ・オバースキー「チャイルドフッド」

あまりにも忌まわしいアウシュビッツを、子どもの眼を通して描いた秀作だった。一時間ちょっとで読めてしまえる本なのだが、これがかなり堪える。厳しい現実を目の前にして、大人は子に正視することを回避させようとするのだが、すべてを隠すことはできない…

マリオ・バルガス=リョサ「継母礼讃」

神話と伝説に彩られた淫らで好色な物語である。穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか?リョサはあらゆる角度からイメージを呼び起こし、様々な模倣を加えラテンの国で起こったフランス的な物語を描いている。…

ディーノ ブッツァーティ 「待っていたのは」

ブッツァーティの作品は不安と不条理に満ちている。その世界は日常をはなれ、およそ現実味のないものなのだが読んでいるとどうも落ち着かなくなってくる。描かれている世界が極端にシュールで不条理なのに、妙にリアルに感じられるのだ。それは彼の描く世界…

ミカエル・ニエミ「世界の果てのビートルズ」

いろいろな国の文学を読んできたが、スウェーデンはまだだった^^。というわけで、本国では十二人に一人が読んでいるという空前のベストセラーとなった本書読んでみました。本書は、いわゆる自伝である。スウェーデン最北の村パヤラ。フィンランドの国境に…

張 平 「十面埋伏」

期待通りではなかった。でも最後まで読み通せたのだからおもしろくないわけではなかった。読んでる間気になったことがあった。これは中国の民族的な慣習なのか、それとも風土がかもし出す風潮なのかわからないが、登場人物がみな一様に熱いのである。みんな…

マリオ・バルガス=リョサ「フリアとシナリオライター」

お腹一杯になります。交互に語られる現実世界とシナリオの世界は、スマートさと猥雑さが表裏となって、現実世界がシナリオ世界に歩調をあわせるように読み進むにつれて、諧謔の度合いを増してゆく。う~ん、ウマすぎる。ほとんどノンフィクションだという叔…

マルキ・ド・サド/澁澤 龍彦 訳 「ジェローム神父」

異端だ。まさしくそうだ。以前マンディアルグの「城の中のイギリス人」を読んだときもそう思った。本書は「美徳の不幸」からの抄録版だそうで、とても薄っぺらい本である。これで1800円は高いと思ったかといったらそうではない。本書には、会田誠氏のそ…

莫 言 「白檀の刑」

清朝末期の山東省高密県。猫腔(マオチアン)という猫のなき声を真似た節で演じる地方芝居の座長である孫丙は、鉄道を建設しようとしていたドイツ人技師に妻を陵辱され、義和団の仲間に入り膠済鉄道の敷設飯場を襲撃、捕縛され死刑を宣告される。 同時期、孫…

ピーター・ケアリー「ケリー・ギャングの真実の歴史」

途中、この奔放な筋運びがどうにもがまんできなくなったのだが、どうにか最後まで読み通した。すると、どうでしょう。忘れられない作品となった。本書の主人公であるネッド・ケリーは、いまなお多くの研究書や評伝が書かれ、本国オーストラリアでは人気のあ…

イサベル・アジェンデ「神と野獣の都 」

あのアジェンデを期待すると、ちょっと肩すかしくらっちゃうかもしれませんが、これはこれで充分楽しめる冒険譚に仕上がっています。いわゆる秘境物ですね。アメリカ人である十五歳の少年が、エキセントリックな祖母に連れられアマゾンの奥地に『野獣』を求…

ルドヴィコ アリオスト「狂えるオルランド」

サンリオSF文庫の「スタージョンは健在なり」が、ついこのあいだ東京創元文庫から「時間のかかる彫刻」として復刊された。その中に「ここに、そしてイーゼルに」という作品が収録されているのだが、そのネタになったのが本書「狂えるオルランド」でである。…

アレッサンドロ マンゾーニ 「 いいなづけ―17世紀ミラーノの物語 」

たいへん楽しんで読みました。結婚を誓い合う二人が、運命によって引き裂かれ、数々の苦難を乗り越えてめでたくゴールインするという、たったそれだけの話が、これほど読み手を惹きつけてやまない魅力ある物語になっていることに驚きます。何が魅力といって…

アルベール・サンチョス・ピニョル「冷たい肌」

あまりにフッ切れた内容なんでびっくりしますね。 本来なら、扶桑社ミステリーなんかで刊行されててもおかしくないジャンル小説だと思います。でもやっぱり、ただのホラー物で括ってしまうにはためらわせる何かがある。本書を読んでる間、奇妙な感覚にとらわ…

カレン・ブリクセン「冬物語」

どうでしょう、この美しい表紙は。ぼくは、まずこの表紙で、本書に恋をしました。 そして、内容。 良かった。実に素晴らしかった。 しかし、このブリクセンの作風は今まで味わったことのない類のものでした。 何が違うといって、この人の描く物語の幕切れの…

ラニ・マニカ「ライスマザー」

『1916年セイロンで生まれたラクシュミーは、14歳で妻となりマレーシアへ渡る。6人の子供を世に送り出し、貧しいけれど温かさに包まれた日々。しかし、日本軍のマレーシア侵攻の時代、最大の不幸が一家を襲う…。』 amazonの紹介より 濃厚さに打ちのめ…

レーモン・ルーセル「ロクス・ソルス」

この本の魅力は、奇抜な発明品の陳列ではなくその発明品に付随するエピソードにあります。正直いって発明品の詳細な記述にはいささかうんざりします。 しかし、いったんその意味不明の発明品の由来に話が移るとたちまち話に引き込まれてしまいます。 特に印…

イザベル・アジェンデ「精霊たちの家」

チリを舞台に、一世紀にも及ぶ家族の歴史と当時の世相を描き、間然するところがない。 まさに本書は、傑作です。 本書では、三代にも及ぶ女性の人生が描かれていくのですが、そこはラテンアメリカ、登場人物も、出来事も普通にはいかない。なにせマジックリ…

ボリス・ヴィアン「日々の泡」

これは、いままで読んだ本の中でも3本の指に入る奇妙な作品でした。 まず、その世界観が目を引きます。 例えば開巻早々、主人公のコランが身支度している場面で、彼が拡大鏡に顔を映すと鼻翼のニキビがおのれの醜いさまを恥じて皮膚の下に逃げ込んでしまう…

ムヒカ・ライネス「七悪魔の旅」

七つの大罪の悪魔が出てくるということで、黙示録的なデモーニッシュな内容なのかと思っていたんで、あまりにも好印象な悪魔たちにびっくりしました。 なんといっても暴食を司る悪魔ベルゼブブが最高。ぼくはいままでこの蝿の悪魔に忌まわしい嫌悪感を抱いて…

ウーヴェ・ティム「カレー・ソーセージをめぐるレーナの物語」

本書を読んで、いったいカレーソーセージなる食べ物がどんな味なのか作って試さない人がいるでしょうか。それほど本書で描かれるこの魅惑的な食べ物は、あこがれと賞賛に満ちていますね。しかし出発点はカレーソーセージなんですが、そこからひろがる物語は…