ラテンアメリカではなんでも起こる。
空から年老いた天使が落ちてくるし、海の底にはもうひとつ都市があるし、指先ひとつで病を治す人がいるし、雲に向かって銃を撃ち、雨を降らそうとする人がいたりする。
およそ普通じゃない状況がさらりと語られる。みんなおとぎ話だ。でもラテンアメリカなら、そういうことがあってもおかしくないと思えてしまう。
これぞ魔術的リアリズム。いまでこそ、こういう手法はいたってオーソドックスなものに変わりつつあるが、この手法の使い方はとてもむずかしい。やはり本場はラテンアメリカなのだ。
日本とは程遠い向こうでは、人間同士のコミュニケーションのとり方や情報の伝達方法が、おおらかで厭味がなくどこかホラ話めいている。そういった土壌で培われた技術だからこそ、いきてくる。
だからラテンアメリカでは、なんでもありになってしまうのだ。
みんな素朴で気取らなくて、どこか怒りっぽい。様々なエピソードからこういった印象を受けたとしてもおかしくはないだろう。
マルケス流の『祖母の語り口』が充分堪能できる本短編集は、マルケス初心者にはうってつけの本だと思う。彼の語りだす話にはついつい乗せられてしまって、嘘だとわかっていても楽しく心地よくスラスラと読んでしまう。そしていつしか彼の地にあこがれてしまっているのである。