トロワイヤといえば歴史物というイメージしかなったが、こんなに素晴らしい小説も書いていたのだ。
本書以前に読んだトロワイヤの本といえば「イヴァン雷帝」だけだったので、ほんとに本書の完成度には目を瞠った。
本好きには、ググッとくる内容で、本書の主人公(トロワイヤ自身)の感情の揺れは微妙な強弱をともなってビンビン伝わってくる。
亡命、異邦人としての生活、いわくありげな友との挑発的な邂逅、そして文学への情熱。少年トロワイヤは、多感な時期を真摯に乗り越えていく。
しかし、亡命なんて劇的な経験をするというのは、どんな感じなのだろう?
祖国を追われるとはどういう気持ちなのだろう?トロワイヤ自身は子供の身ゆえ新しい環境にも順応していくのだが、順応しきれない父と母の姿は、滑稽な悲哀に満ちている。
ともかく、伝記作家としての認識しかなかったトロワイヤのこんな素晴らしい作品が読めたことは大きな収穫だ。他の作品も是非読んでみたい。強くそう思った。