読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ヨナ・オバースキー「チャイルドフッド」

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あまりにも忌まわしいアウシュビッツを、子どもの眼を通して描いた秀作だった。一時間ちょっとで読めてしまえる本なのだが、これがかなり堪える。

厳しい現実を目の前にして、大人は子に正視することを回避させようとするのだが、すべてを隠すことはできない。子どもは、その大人なら耐えられない現実をあまりにも無邪気に、そして冷静に受けとめてゆく。本書は、オランダで原子物理学者として活躍する著者の実体験に基づいて書かれた本である。いろんな本を読んで、いろんな映画で観て、アウシュビッツの悲惨さ、残酷さをよくよく知っていると思っていたのだが、ぼくは本書の前に平伏してしまった。人間の愚かさを叩き込まれ、人間の尊厳を考えさせられた。簡潔に語ることによって、最大限に悲惨さを引き出している本書は深く心に残る一冊となった。