読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ディーノ ブッツァーティ 「待っていたのは」

ブッツァーティの作品は不安と不条理に満ちている。

その世界は日常をはなれ、およそ現実味のないものなのだが読んでいるとどうも落ち着かなくなってくる。描かれている世界が極端にシュールで不条理なのに、妙にリアルに感じられるのだ。

それは彼の描く世界が、運命の皮肉や宿命的な抗えない大きな力を実感させるからなのだろう。

本書に収録されているのは十五編。およそ数ページの短いものばかりである。

だがその短い枚数の中に、彼は巧みに悪夢世界を描いてみせる。

友人とバカンスに出掛けた母親が叔母に預けたと思っていた我が子を、ほんとは酷暑のアパートに閉じ込めてきたままなのではないかと血も凍る恐怖にとらわれる「忘れられた女の子」。

遊び心から歴史ある建造物の壁をよじ登り、錆びた鉄の支柱に手をかけ折ってしまったがために建物が崩壊してしまうという惨劇に見舞われる「バリヴェルナ荘の崩壊」。

見知らぬ土地を旅するカップルが、涼をとろうと公園の池に入ったがために地元の住人から虐待を受ける表題作等々まさに悪夢ともいうべき話が満載で、夢でみれば汗だくでとび起きるような作品ばかりなのである。

う~ん、好きだなこういう話。単純におもしろい。しかも結構こわい^^。

残念ながら、この本も絶版なのである。ぼくも図書館で借りて読んだ。河出から出てた本だから、もうそろそろ文庫化してくれないだろうか。そうすれば、この傑作短編集を誰でも読めるようになるのに。