清朝末期の山東省高密県。猫腔(マオチアン)という猫のなき声を真似た節で演じる地方芝居の座長である孫丙は、鉄道を建設しようとしていたドイツ人技師に妻を陵辱され、義和団の仲間に入り膠済鉄道の敷設飯場を襲撃、捕縛され死刑を宣告される。
同時期、孫丙の娘で『犬肉小町』とよばれる美女・孫眉娘のもとに義理の父親・趙甲が北京から帰って来る。この趙甲、西太后からは白檀の数珠を、皇帝からは白檀の椅子を賜ったという伝説の処刑人だった。孫丙の処刑を依頼された趙甲は、細く削った白檀の木に油を染みこませ、肛門から挿入し、自重で突き刺してじわじわと死に到らしめる『白檀の刑』という極刑を考案するのであった。
中国の現代小説を読むのはこれが初めてだが、思っていたより読みやすく、おもしろかった。
扱われている題材にもよるのだろうが、まず中国の恐れを知らぬ文化の力に圧倒された。
食文化にせよ、刑の文化にせよ、芸の文化にせよ目を見張るものがある。
日本の常識に照らして考えるなら、まさしく中国は奇想の国なのだ。
本書のメインで扱われているのは、題からもわかるとおり『処刑』なのだが、ここで語られる様々な極刑の凄惨さは、グロテスクを通りこして神秘的でさえある。
莫 言の筆は、作中に登場する『猫腔』のように軽々と謡いあげられ、リズムを狂わせることなくラストへ続いていく。
一つ難をいえば頭部、腹部の各章が、前後する時間系列により少々煩わしくなっていることぐらいか。
しかし、その難を補ってあまりあるほどのおもしろさだった。謝々。