読書の愉楽

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イザベル・アジェンデ「天使の運命」

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 ぼくにとってアジェンデの「精霊たちの家」は、世界最高の物語だった。ラテン・アメリカの素地を活かし、マジック・リアリズムの世界と豊かな物語世界が絶妙に融合した傑作だった。あの感動を再び味わいたくて本書を読んだのだが、こちらは少し軽めの作品だった。

 

「精霊たちの家」はチリを舞台に一世紀に及ぶある家族の歴史を三代にわたる女性を主軸にすえ描きだした壮大な大河小説だった。

 

 しかし、本書は体裁としては恋愛小説。物語の濃密さにおいて前作よりは劣った。
だが、ストーリーテラーとしての手腕は健在で、上下巻一気読みのおもしろさは相変わらずだった。主人公であるエリサは出生の秘密をかかえた不思議な少女で、彼女の生い立ちと初恋の顛末を語ったのが上巻。初恋の相手を追ってゴールドラッシュに沸き立つアメリカに渡り、第二の人生を歩みだすのが下巻という構成になっている。上巻のエリサの日常と当時のチリの様相を語った部分もおもしろいが、下巻の未開の地カリフォルニアが数々の人種を巻き込み発展していく様がめっぽうおもしろい。
 その他、脇をかためる登場人物のサブストーリーも唐突にはじまるきらいはあったが、さすがアジェンデしかっりツボはおさえてて楽しめた。
どうしても尻すぼみの感は否めないが、全体的にみてよかったと思う。
やはりアジェンデは素晴らしい。
さしずめ本書はアジェンデ版ハーレクインロマンスといったところだろうか。
ところで、本書が刊行されたのは二年前。昨年「神と野獣の都」が刊行されたが、これはヤングアダルト向けのファンタジーだった。ぼくとしては、彼女の本領ともいうべき壮大な大河小説が読みたいのだが、はやく出してくれないものだろうか。