読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ラニ・マニカ「ライスマザー」

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 『1916年セイロンで生まれたラクシュミーは、14歳で妻となりマレーシアへ渡る。6人の子供を世に送り出し、貧しいけれど温かさに包まれた日々。しかし、日本軍のマレーシア侵攻の時代、最大の不幸が一家を襲う…。』 amazonの紹介より



 濃厚さに打ちのめされる物語ですね。下巻にはいってディンプルがルークと出会ってからは描かれる世界がスッパリ分かれてしまいますが、それでも濃厚さはかわらない。しかし、この感じは同じアジア人という同胞的な匂いがしてとても馴染み深い。

 

 八十年近くをこの一族と共に歩んできたわけですが、時間の悠久は感じられません。そこがちょっと不満。作者の筆は落ち着いているのに、飛ぶように時間が過ぎていく。しょうがないんでしょうが、もう少し配慮があれば、なおいい作品になったんじゃないでしょうか。

 

 しかし、限りなく無惨な話ですね。読了したいまでも心底震え上がって強烈に印象に残っているのが、日本兵にモイニが連れ去られた次の日、双子の兄であるラクシュマンが囚われている妹の受けている仕打ちを、双子特有の共感覚で察知し、母に訴える場面です。この時の「モイニの食べてるものの味がわかる。酸っぱい。ものすごく酸っぱいよ。モイニは死にたがってる」というラクシュマンの慟哭が耳にこびりついて離れません。

 

 たぶんこの場面は十年たっても二十年たっても頭にこびりついて離れないでしょう。

 

 本を読んでいて、腹が立って、どうにもできなくて、くやしくて眠ることができなかったのは、本書がはじめてでした。

 

 ぼくは、この物語を全面的に肯定します。荒くて構成が破綻していてもこれだけ強烈な体験をしたんですから真摯に受け入れます。読んでよかった。