読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

カレン・ブリクセン「冬物語」

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 どうでしょう、この美しい表紙は。ぼくは、まずこの表紙で、本書に恋をしました。

 そして、内容。

 良かった。実に素晴らしかった。

 しかし、このブリクセンの作風は今まで味わったことのない類のものでした。

 何が違うといって、この人の描く物語の幕切れの手並みは、およそ凡百の作家が束になっても敵わぬほどうまい具合にボカしてあるんです。言いかえれば、物語の結末を読者にゆだねてる。でも、それがけっして不可解ではない。あざやかなんです。

 まして、ブリクセンの物語作家としての資質が遺憾なく発揮されてる、この豊かな短編の豊饒なことといったら・・・。

 本書の後半に配置されている数編など特に素晴らしい。「アルクメネ」という短編などは、完璧といっていい作品だと思います。古代デンマークを舞台にした「魚―古きデンマークより」っていう作品は、まるで「指輪物語」の世界そのもので、読んでいる間は森林と馬具の匂いに包まれてました。「ペーターとローサ」や「嘆きの畑」は悲劇そのものの題材が、それだけにとどまらぬ深い思索と作者の運命に対する真摯な考え方に彩られ、豊かな余韻を残します。

 ほんと生粋の物語作家による物語のための物語という感じで、短編集ながらとても濃いですね。なんの脈絡もなく、ひょいとイプセンが登場したりして驚いてしまいます。デンマークという国色がそうさせるのか、普通小説とファンタジーとの越境が軽々とこなされていて、うれしくなってしまいます。

 豊かな物語を存分に満喫できる本書は、いまの時期にぴったりの一冊です。

 いま現在、古本しかないようですが、見つけたらどうぞ、手にとってみて下さい。