読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

雨穴「変な家」

 

変な家 文庫版

 取っ掛かりの謎は魅力的だ。奇妙な間取り、余計な空間、導線を無視した部屋の配置。よくよく見ればおかしな所ばかりなのである。その奇妙な間取りの家を購入しようか迷っている知人の依頼でこの物件を調べることになった筆者は、これまた知り合いのミステリマニアの不動産屋さんの栗原氏とこの変な家に隠された謎を解明するのだが…。

 謎の設定はおもしろく先に進めさせる吸引力はあるが、いかんせん探求と判明のみの本筋だけの進行なのが軽い印象を与える。真相もおよそ現実味がなく恐怖を感じる前に少し白けてしまった。解説で明かされる最後の最後の真相も、うまく閉じているようでそうでもなかった。

 この変な家のことをネットで公表したことによって、新たなキーパーソンと繋がり、そこから劇的に謎が解明されてゆくのだが、物語の筋を追うのに性急で、展開がかなりご都合主義的な印象をあたえてしまう、そうしないと、次に繋がらないから、これは仕方のないことなのかな。でも、そこに工夫があったらもっと奥行きが出たのにと思わずにいられない。

 真相にしても、因縁を絡めた狂気を感じさせるところまではいっていない。過去の出来事が腐臭をともなって立ち上がってくるような恐怖を期待していた身にとって、これは少し弱かった。これならまだ

小野不由美「残穢」

のほうがおぞましかったのではないだろうか。

 狂気は恐ろしい。信じる力は、何よりも恐ろしい。

春日武彦「屋根裏に誰かいるんですよ。  都市伝説の精神病理」

を読んだ時に心底そう思った。それをうまく描けたら、それほど怖いものはないなと思うのである。

 それにしてもミステリ好きの不動産屋の栗原さんて何者(笑)。名探偵すぎるでしょ!!