クリスマス・イヴの夜、家族で暖炉を囲みお互い怪談話を披露しあう場面から物語は幕を開けます。で
も、主人公である『私』は、話を披露する事なくその場をあとにします。彼には、再婚した妻にも話して
いない恐ろしい過去があったのです。
この本を読んだのは、もう十年以上前になるんですが、いまだにあの時の衝撃は忘れられません。
静かに静かに語られる炉辺の怪談話のように、派手な演出や過剰な描写などに頼らないリアルで、怖いホ
ラーでした。早川モダンホラー・セレクションの一冊として、当時は出版されていたのですが、正直いっ
てモダンホラーと名のつくものに正味の怖い作品なんてありゃしませんでした。モダンホラーは、怖いん
じゃなくて、巧みでおもしろい話というのが正直な感想。
でも本書は怖かった。
物語も巧みな上に、なかなか怖かったんです。
この本がモダンホラーなのかどうかってのは、モダンホラー概論を知らないぼくには論じるすべもないん
ですが、本書を読んだことで早川モダンホラー・セレクションを少し見直したのは確かです(笑)。
怖い怖いと強調すると、身構えて読んでしまうかもしれませんね。
ここはひとつ、ゴシックの正統な系譜に連なる丹精な恐怖小説を、お楽しみくださいといっておきましょ
うか。
血や内臓が飛び散る昨今のスプラッタにはない正攻法のホラーを堪能して下さい。驚きますよ。