読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2005-11-01から1ヶ月間の記事一覧

ジョン・スタインベック「怒りの葡萄」

これは、資本主義的な経済の発展と共に昔ながらの農業を続ける小作農家の家族が土地を奪われ、別天地だと信じるカリフォルニアに大移動する行程を旧訳聖書の『出エジプト記」になぞらえて描いた、一大叙事詩であります。 こう書くと、のっけから小難しい印象…

コニー・ウィリス「犬は勘定に入れません~あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」

では、「ボートの三人男」を本歌取りした傑作SFいってみましょうか。 本書はタイムトラベル物であります。21世紀と19世紀を行き来し、過去の遺物を存続しようとする史学生ネッドとヴェリティが本書の主人公。 で、あのユーモア小説「ボートの三人男」…

ジェローム・K・ジェローム「ボートの三人男」

なかなか楽しめます。 本書は、19世紀のヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台にした、ユーモア小説です。三人の男がボートにのってテムズ川をキングストンからオックスフォードまで旅する話。ただ、それだけの話なのに本書は無類におかしい。 当初、作者の…

シオドア・スタージョン「影よ、影よ、影の国」

現在絶版のスタージョンの怪奇、幻想短編集であります。最近、再評価が高まっているスタージョンですが、本書におさめられている短編は、現在でもほとんど読むことができない状態です。どこかの出版社さん、是非復刊お願い致します。 以下簡単に各作品につい…

読書の愉楽〈続・続・続〉

和洋折衷で様々な本に出会い、ぼくはどんどん読書の持つ魔力にとらわれていきました。 この世界には果てがない。 地平は、進むごとに広がるばかり。決して終わりがありません。 小説の持つ底力は無限大です。メディアの持つ力というのも絶大ですが、そこには…

子育ての意味。

子を持つ親となっていろんなことを子供から教わったし、様々な問題に立ち会ってもきた。人から聞いたことがある。 わが子というものは、自分の所有物ではない。その子どもは、神様によって与えられたものである。 だから、子を持つということは、神様があな…

舞城王太郎「煙か土か食い物」

最近というか、読んだのはもう何年も前なのですが、本書をはじめて読んだ時は、その異様なまでの文章に完全にノックアウトされてしまいました。 この人、福井出身ということで、物語の舞台も福井なら登場人物の話す言葉も福井弁。でも、そのいままでになかっ…

ロバート・ウェストール「弟の戦争」

戦争文学は数あれど、湾岸戦争をこういう風に正面切って描いた作品は、はじめてでした。本書の主人公の弟フィギスは、少し変わった子で小さい頃から不思議な言動が目立っていました。人の気持ちをおそろしくナイーヴに受けとめ、一種のテレパシーのようなも…

アイラ・レヴィン「ブラジルから来た少年」

本書の魅力は、サスペンスにあります。いったいどういうサスペンスなのか?本書の巧みな点はそこにあります。 全体を覆うナチスの影、第1章からピンッと張り詰めた緊張感に包まれ不穏な空気が漂い、読者はあれよあれよという間に話に引き込まれてしまう。そ…

KUWAIDAN~その2~

もう十数年前の話である。 冬の土曜日の朝まだき、いきなり目が覚めた。 時計を見ると五時半。 なぜ、目が覚めたんだろう。でも、妙に胸がドキドキしている。変な夢でもみたのかな。 ぼんやりしていると、質感をともなった悪意が足元から吹きつけてきた。 足…

コリン・デクスター「キドリントンから消えた娘」

錯綜する推理が迷宮にも似た混乱を呼び、いったい何がどうなってるのか一回読んだくらいでは、よくわからないという困った状況に陥ってしまうのが、本書「キドリントンから消えた娘」です。 何がスゴイといって、本書に登場するモース警部の推理迷宮は、ちょ…

梁石日「子宮の中の子守唄」

心してかかって下さい。この本は、それほどに過酷な本です。 なんの苦労も知らず、ぬくぬくと育ってきた甘ちゃんのぼくには、まるで地獄をみているような恐ろしいくらいの修羅場でした。 生きるという事が、こんなにも苦悩に満ちた喘ぎのくり返しだとは思い…

KUWAIDAN~その1~

ぼくが聞いたことのある怖い話を、ここで紹介したいと思います。 怪談といえばよくタクシーの運ちゃんが、幽霊と遭遇された話を聞きますが、以下の話は実際にぼくがタクシーの運ちゃんから聞いた話です。 『わたし、いまはここでタクシー乗ってるんですが、…

ジャネット・ウィンターソン「さくらんぼの性は」

ユーモアと奇想に満ちた、ぼく好みの作品でした。 とてつもないホラ話が歴史の真実とうまくブレンドされ、読者を巧みに幻想の世界へと誘ってくれます。 多くのメタファーと、哲学的な登場人物たちの思考、それに時空を飛びこえてしまう脈絡のない構成と本書…

島田荘司「アトポス」

島田荘司の御手洗シリーズは大概読んできたのですが、初期の作品にくらべて中期にあたる作品群は、謎の提示は魅力的なのに、解決にいたって肩すかしをくらってしまう作品が散見されました。 それでも、出れば読んでしまうってことはやはり魅力あるんでしょう…

色々思うこと。

わが娘が、小学4年になってはじめて、人間関係に悩んでいるらしい。 信用できる親友が一人もいないという。 こういう時、どんなアドバイスをしてやればいいのかと、親の立場としても悩んでしまう。本人は、わりとさっぱりした性格なので、そんなに深刻な話…

禿げる菌

ぼくは、夢の中でぼんやりとテレビをみている。 すると、突然画面が変わり臨時ニュースが報道される。 新発見!禿げる菌が見つかりました! な、な、なんですと!!! ハゲるのは、菌のせいだったのか!? ぼくは、愕然とする。 そうなのか、てっきりぼくは…

スティーヴン・キング「不眠症」

本書の設定で、まずおもしろいのが主人公が老人だということ。彼らのスローペースだが、ウィットを忘れないささやかな日常が描かれていきます。老人が日々思う事柄、思うように動かない身体、各々のレベルで維持される矜持。物語を追うにつれて、いつも通り…

ベヴァリー スワーリング 「ニューヨーク」

この本は、医術の開拓に焦点があてられた、まさにページを繰るのももどかしい本でしたが、構図的には『復讐』の物語でした。最初から終わりまで、『復讐』が語られ複雑な思いで一喜一憂しましたが、カタストロフィはおとずれない。どの『復讐』にしても勝者…

レベッカ・ブラウン「家庭の医学」

これってノンフィクションなんですね。てっきり小説だと思ってました。ってか、ほとんど小説ですよ ね?作者自らが看取った母との最後の日々。生あるものが、灯火を燃え尽くして魂がぬけていく様が肉親 の目を通してるのにも関わらず、ドライで客観的な視点…

デヴィッド マドセン 「グノーシスの薔薇」

おもしろかったですね。充分堪能しました。確かにエログロ描写はテンコ盛りなんですが、それにもまして物語の魅力が素晴らしい。豊穣にして壮麗、荘厳にして蠱惑的な世界は小説のおもしろさをこれでもかとわからせてくれます。ルネッサンス期のローマは世界…

シオドア・スタージョン「きみの血を」

あまりにも特殊な吸血鬼物ですね、これは。 まず構成から変わっていて、ラストの真相が明かされるところまで吸血鬼も登場しなければ、それらしい 場面も出てこない。事件を探る軍医と陸軍大佐との往復書簡や、渦中の人物による手記などが綴られてい くのです…

ロバート・ウェストール「かかし」

本書は全編通して重苦しい雰囲気に包まれています。 主人公の少年サイモンは、思春期特有の難しい時期にあり、世のすべての事を否定的にとらえ、どうしょうもない衝動を内に秘めて不満にまみれています。彼の父親は先の戦争で戦死しており、まだ若くて美しい…

オードリー ニッフェネガー 「 タイムトラベラーズ・ワイフ 」

残酷な話だと思います。これほど痛みをともなうタイムトラベル物は、初めてです。 ロバート・F・ヤングの短編に「リトル・ドッグゴーン」という短編があるんですが、あれを読んだ時に感じた胸を衝く痛みと同じ感触です。ヤングの方はタイムトラベルじゃなく…

クイズでも出してみましょうか

というワケで クイズ!!! いってみましょうか。 『ジョンとメアリが、密室で死んでいた。 そばには、ガラスの破片と水が少しあった。 いったい彼らに何が起こったのでしょう?』 というクイズです。 どうですか?わかりますか? このクイズは、とんち等のたぐ…

鳥越 碧「一葉」

樋口一葉といえば「にごりえ・たけくらべ」を書いた人というくらいしか認識なかったし、その作品に接したこともなかったのですが、そうか、この人はこんな思いをして小説と向き合っていたんだと新鮮な気持ちで読みました。 彼女は天才でした。 でも天は、そ…

ミル・ミリントン「 ああいえばこういう。 このあと続けてもう一回っていうのは、きついかも」

この本は、タイトルと扇情的な表紙のせいでだいぶ誤解されてるんじゃないかと思います。この本の原題は「僕とガールフレンドが口論してきたこと」。全編、これ笑いに満ちたエピソード満載で、久しぶりに本を読んで声をあげて笑ってしまいました。この本の作…

リチャード モーガン 「オルタード・カーボン」

遥かかなたの未来の話なんで、感覚としては現代と戦国時代くらいの文明の隔たりがあるんですが、一番のアイディアはタイトルにもなっている「オルタード・カーボン」。人間の心がデジタル化されメモリー・スタックに保存されているんです。だから、肉体が損…

アダム・ジョンソン「トラウマ・プレート」

良さそうだと思って読んだら、期待以上に素晴らしかったんでびっくりしました。この短編集、後になる につれて傑作が揃いぶみで、特に印象深いのがラストの「八番目の海」と「大酒飲みのベルリン」。前者 はこの短編集の中でも数少ない普通小説。だから余計…

ムヒカ・ライネス「七悪魔の旅」

七つの大罪の悪魔が出てくるということで、黙示録的なデモーニッシュな内容なのかと思っていたんで、あまりにも好印象な悪魔たちにびっくりしました。 なんといっても暴食を司る悪魔ベルゼブブが最高。ぼくはいままでこの蝿の悪魔に忌まわしい嫌悪感を抱いて…