読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

KUWAIDAN~その3~

これは、親戚のおばちゃんから聞いた話である。

おばちゃんが子どもの頃というから、昭和も一桁の時代の話。

その日、おばちゃんとお母さんは二人で近くの山に山菜を採りに行った。

午前中に出かけて山でお弁当を食べ、いっぱい山菜を採ってさあ帰ろうとした時にはもう夕方近かった。

いつも、通いなれたけもの道。迷うはずがない。

しかし、迷ったのだそうだ。行けども行けども出口に辿りつけない。

何度も同じ大木の前を通る。

勘違いではなく、確かにその場所はさっき通ったところだったのだそうだ。

さすがに疲れたおばちゃんは、ちょっと心細くなってお母さんにこう言った。

「なあ、これはおかしいで。いつもやったら、とっくに家に着いてるやん。これ、お稲荷さんに化かされ

てるんとちがう?」

それを聞くと、お母さんはキッと振り返り怖い目でにらんで

「そんなことあらへん!」

と怒ったように言ったそうである。

またしばらく歩いたが、やはり出口が見えない。

だんだん辺りも薄暗くなってくる。このままでは家に帰れないんじゃないかと、不安が頂点に達しそうに

なった時、お母さんが背負っていた荷物を降ろし、中からお昼の食べ残しのおにぎりを出して、近くの大

きな木の根元に置きこう言った。

「お稲荷さん、お稲荷さん、山を汚してすいませんでした。これで、どうか許して下さい」

お母さんを見ると、一心に手を合わせて拝んでいる。おばちゃんも、よくわからないまま一緒に手を合わ

せた。

そうして、拝んでからまた二人で歩きだした。

すると、不思議なことに山の出口にたどり着けたのだそうだ。

しかし、二人がまさに山を出ようとした瞬間、身体が浮き上がるような突風が後ろから吹き付けてきた。

二人は、突風に押し出されるようにして、山から出て、家路についた。

家に帰って、荷物を開けたとき二人は再び驚くことになる。

採ってきた山菜が、すべて腐っていたのだそうである。

ありえない話だが、ほんとうにあった話なのだそうだ。

後日、おばちゃんは、気にかかっていたことをお母さんに聞いたのだそうだ。

なぜあの時、あんなに怒っていたのかと。

お母さんが言うには、あの時お昼を食べたあとにもよおして、近くの茂みでおしっこをした。そして、帰

り道でああいう目にあってしまったので、これはお稲荷さんの怒りを買ってしまったんだと思ったが、自

分がしたことが原因で、わが子を危険な目にあわせたということを認めたくなくて、あんなに強く否定し

てしまったのだということだった。

わかるような気がする。