読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

フラン・オブライエン「第三の警官」

これ、長らく入手困難だったんですが、先頃、筑摩世界文学大系第68巻がめでたく再刊されたんで、ま

た読めるようになりました。でも、この筑摩の文学大系シリーズは、三段組なんですよね。だから、ペー

ジが進まないったらありゃしない。値段も6615円と、とても高い。

ということで、ぼくは図書館で借りて読みました。

フラン・オブライエンは、アイルランドの作家です。アイルランドといえば、奇想ということで、この人

もかなり奇想が炸裂した作品を書いています。

ぼくは、本書の前に「ドーキー古文書」という作品も読んだのですが、これがめっぽうおもしろかった。

聖人は甦るわ、人間と自転車の原子レベルでの融合を憂慮する警官はあらわれるわ、ジェイムス・ジョイ

スがパブでバーテンダーやってるわで、ぼくが生まれる前にこんなスゴイ小説を書いていた人がいたのか

と驚いてしまいました。

で、本書なのですが、本書も期待に違わずおもしろかった。本書では、オブライエンの持ち味である幻想

性がさらに強調されています。

本書で描かれるのは、一人の男の冥府めぐり。様々な人物が登場し、奇想に輪をかけた奇妙奇天烈な出

来事が頻発します。

各章の冒頭に、「ドーキー古文書」にも登場したド・セルヴィなる科学者の研究についての断章がついて

いるのが笑えます。

この科学者、夜を袋につめる方法や、道に残った足跡から何人そこを通過したかを割り出す算定式や、

合わせ鏡の奥を覗き込んで、無限に続く状況を研究したりと、まことに楽しい人でして、さらにおかしい

のが、それをオブライエンがことさら真面目に語るので、逆にユーモアが強調されている点です。

メインのストーリーも、まことに人をくったもので、ルイス・キャロルとよく比較されるのも、充分納得

できます。

引用になりますが、ぼくの大好きな読書人、風間賢二氏の言葉を紹介しますと

「鬼面人を驚かせる物語展開、プレテキストのパロディ、言語遊戯、グロテクスな登場人物など、とにか

くこの本は凄い。ここでは本書を、真のアイルランド的奇想が生んだ不条理な笑い溢れる『死者の書』あ

るいは現代版『地獄篇』と称しておこう」

ということなんです。

先だって、このオブライエンの「ハードライフ」が国書刊行会から出版されました。ぼくも読みました

が、本書や「ドーキー古文書」のインパクトにくらべれば、こちらは少し落ちる。

オブライエンの最良の部分といえる奇想溢れる幻想性、緩急自在の筋運び、真面目に語れば語るほど強調

されるユーモアなどがこの「ハードライフ」ではすっかり息をひそめてしまってる。

もし、「ハードライフ」を読んでオブライエンてこんなものなのかと期待ハズレだった方、それで懲りず

に是非本書は読んでみて下さい。クラクラすること請け合いです(笑)。