読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ピーター・S・ビーグル「最後のユニコーン」

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なんという素敵な本でしょう。

伝説が生まれる瞬間に立ち会ったって感じですね。物語自体は、起伏に富んでるわけでもないし、先に先にっていうリーダビリティがあるわけでもない。でもこうして読了してみると、どこか尊い場所に行って敬虔な気持ちになったかのような感動があるんです。

まず、ユニコーンがいる。最後のユニコーン。彼女は存在自体が伝説であり、神話であり、至高の生き物。仲間のユニコーンを捜すために彼女は旅に出る。やがて旅に加わる片手落ちの魔法使いシュメンドリックと、蓮っ葉だけど心はあったかい女モリー・グルー。

仲間のユニコーンは、破壊の王ハガードに仕える赤い牡牛によって、どこかに幽閉されているらしい。彼らはハガードの城があるハグスゲイトへ向うが、そこに赤い牡牛が現れて・・・・っていうのが大雑把な物語のアウトライン。

で、このオーソドックスな物語のどこがそんなにいいのか。

ビーグルの操るリリカルな言葉に酔う。

各登場人物のあまりにも儚げな振る舞いに一喜一憂する。

ユニコーンと赤い牡牛の一騎打ちに神話的なシンフォニックな感動を得る。等々いいところはいっぱいあるんですが、これだっ!って一言で表す言葉をぼくは持ち合わせていません。

とにかく発表されると同時にファンタジーの古典となったこの作品、王道ともいうべき正統派のファンタジーでありながら、人の手の加わらない伝説にも似た風格がありました。読めてよかった。ふと思ったんですが、この本は女性より男性の方が好きになるんじゃないかな。なぜかというと、本書の中には清らかで、透明で、一点のシミもない、抱きしめるのにも躊躇するような女性が登場するからなんです。世の男性すべての理想となりえるアニマ的な存在。う~ん、ぼくも彼女の面影が脳裏から離れず、少し引きずっているかもしれない。