本書には八編の短編が収録されています。
アリステア・マクラウド。
この人の本を一冊でも読めば、必ずこの作者の名があなたにとって特別な響きを持つことになるでしょう。
それほど、この作者の描く世界は素晴らしい。
各作品から受ける印象はとても静かなんですが、その静けさの中に激しい真実が垣間見えるといえばいいでしょうか、本書を読んで、つくづくぼくは心配の少ない平穏な日常に埋没してるなぁと感じました。
地球上には色んな場所があり、おんなじ家族を描くにしてもこれほどの隔たりがあるのかと。
生と死のイメージがあまりにも頻繁にあらわれ、だからこそ生命への力強いメッセージがびんびん伝わってきました。いつも灰色の雲に覆われて、ことあるごとに風雨にさらされている情景は、陰鬱で冷たい世界を象徴しています。でも、その中で毎日を真剣に生きている真っ当な人々のあまりにも厳しい生活が浮きぼりにされ、力強い生命力が強調されてるんですよね。
この作品で描かれる様々な家族は、ほとんどが子の目を通して見る親や祖父母の姿なんです。そういったものは、世界共通だからとても身近で一種の郷愁にも似たせつなさを呼び起こします。
本書の魅力が、普遍的だといわれる所以でしょう。余韻が残るのはそのせいでしょうね。
でも生活や風習はまったく違う。ぼくはこの本を読んでラテンアメリカに通じるマジックリアリズムの匂いも感じました。独自の文化が目新しく、そういった意味でもとても魅力的です。
あまりにも身近な自然の脅威。その中で身につけて代々伝えられてきた風習、独自の文化。こういった世界が今生活している我々とはあまりにもかけ離れているため、新鮮な驚きを感じます。
本書は寒い季節に読むのが、ぴったりです。未読の方は、是非どうぞ。