ぼくがはじめて読んだスタージョン作品は、「人間以上」でした。
この本、確かに傑作だといわれるだけあって素晴らしい作品だったんですが、難解だなと思ったのも事実でした。読んでいて、作者の頭の回転についていけないなと思ったことが何度もありました。
しかし、本書「ヴィーナス・プラスⅩ」は難解といわれるスタージョンの長編の中では、至極まともで読み易い。
物語は、ある男が、突然見知らぬ地で目覚めるところからはじまります。その地には、奇妙な建造物が建っていて、奇妙な服を着た男とも女とも判断できない人たちがいます。彼らは自らをレダム人だと言い、その男にこの地の文明を評価していただきたいと願い出てきます。
そこから、男のレダムの地での奇妙な冒険がはじまります。
本書はそのメインストーリーと、アメリカの日常を描いた場面とを交互に描いた構成をとっています。
レダム世界とアメリカの何気ない日常を交互に語って、男女の性差の問題を問いかけるという手法は、冗長になりがちな展開に変化を与えて秀逸。
二つのエピソードはラストにいたるまで一度もリンクしないんですが、描かれている事柄はお互いを補いあうような形で相乗効果をあげています。
生物学的な見地から。
日常の言葉遣いから。
社会の立場から。
子供とのふれあいから、スタージョンは様々な男女の性差の垣根の低さをアピールしていきます。いま読んでも、なるほどと納得してしまう。スタージョンの視線は、どことなく温かく、それが強く伝わってくる。本書を読んで、さらに彼のことが好きになってしまいました。
孤高だ、難解だ、といわれるスタージョンはやはり『愛』においてとても甘い作家なんだなあ。