読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

スティーヴン・キング「I T」

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いまさらなんなんだ、というような評価の定まった作品をわざわざ取り上げるのも気がひけるのですが、

でも自分のブログだからこそ一言いいたいという気もありまして、あえて、こういった定番作品を取り上

げてみました。

世界的怪物作家キングの第一期集大成的存在であり、マグナムオーパスともいうべき記念碑的作品が本書

「IT」です。

単行本上下巻あわせて1100ページを越え、上下二段組というこのボリューム。この単行本が出た14

年前は枕にできるだとか、弁当箱だとかいわれたもんでした。

当時この本、刊行告知があってから一年くらい予定が延びて刊行されたんですが、その頃キング・フリー

クだったぼくは、延び延びになる刊行にしびれを切らして、文藝春秋本社出版部に「いったいどうなって

るんだ!」と電話したことがありました(笑)。

そして、ようやくこの本を手に入れた時のうれしさ。いまでもよく憶えています。もう、血管が切れるん

じゃないかってくらい興奮しましたね。

そして、読み終わるのが惜しいのに、一気に読了してしまいました。

「骨の袋」ぐらいから、キングの作品をリアルタイムで読んでないんですが、それまでは忠実なキング読

者だったぼくにとって、この本はキング作品のベスト1だと思います。

はじめて接した「シャイニング」や、あまりにも巧みに構築されている「デッド・ゾーン」も捨てがたい

ですが、やはり本書が一等賞だと思います。

本書の魅力は、やはり狂おしいくらいに愛しくノスタルジックに描かれる、主人公7人の子ども時代の描

写でしょう。キングの描く子どもが素晴らしいというのは「シャイニング」でも経験済みでしたが、本書

では、その力量が最大限引き出され頂点を極めてしまっています。

登場する子どもたちは、いわゆる『はぐれ者』、いじめられっ子です。どもりだったり、デブだったり、

様々な理由でいじめられている子どもたち。

毎日の生活の中で、子どもの世界特有の論理に従って繰りひろげられる遊びや、いじめや、取決め事。

自分の子ども時代に感じた事や、経験した事がそこにはあります。

どうして、ここまで子どもの気持ちを描けるんだろう?どうして、ここに登場する子どもたちは、ぼくと

同じ経験をしてるんだろう?

読んでいて何度もそう思いました。

とにかく、本書は挑戦してみる価値のある本です。キングの最大長編であり、海外の評価ではこちらの方

が高い「スタンド」も読みましたが、ぼくはやはり「IT」が彼の最高傑作だと思います。