太平洋戦争末期、捕虜となった米兵8名を生体解剖したという事実を描いたのが本書「海と毒薬」です。
生体解剖という、医学の発展と原罪を天秤にかけた禁忌を描くことによって、読む者に衝撃をあたえる本
書は、かのアウシュビッツや南京大虐殺のような人間の暗部を曝けだしています。
本書を読んでいる間中、同じ人間でありながらどうしてそのような神に叛く行為ができるのか?と何度も
問いなおしてしまいます。
事実だけが持つ重さというものがあります。あってはならない事ゆえに、その事実に直面すると我われは
その重さに押しつぶされそうになってしまいます。
『犠牲』、『生贄』、様々な言い方はありますが、敵であるがゆえに医学の発展のため、命を落とすこと
になってしまった人たちのことをぼくは忘れません。
手術室に入る前の米兵の描写が忘れられません。
あの、若い米兵の怯えた目が忘れられません。
彼の心情を思うと、涙を抑えることができません。
これを読んだ誰もが、同じ気持ちになることでしょう。
やりきれない歯がゆさと、神にツバを吐きかけるような恐怖。
薄い本なのに、内容は果てしなく重い。心して読んで下さい。