これを読んだ時は、正直驚きました。
これは、推理小説としても一級品ではないか、とね。
本書は連作短編の形式をとっています。
各章、それぞれ独立した短編で、タイトルが示すとおりみな手紙文で構成されています。
でも、それが只の手紙にとどまらず、そのうちの数編などは、あざやかなどんでん返しをみせてくれるん
です。これが素晴らしい。
様々な人生模様が描かれ、あざとさや勘違い、それに落とし穴が読み手の胸に響いてきます。
この巧みなつくりは、ほんとうに只事じゃあないですよ。
書かれている風俗などには、時代を感じさせるものがあり、昭和の匂いがプンプン鼻につくのですが、そ
の構成とストーリーのおもしろさは、今でも充分輝きを保っています。
そして、大団円をむかえるにあたってラストにはさらなる仕掛けがほどこされており、最後までどんでん
返しに『してやられる』快感を味わうことができるんです。
これは、ほんとめっけもんでした。
数ある短編の中で、どれが一番か?と問われれば、ぼくなら「里親」をあげますね。このトリックは、ほ
んとにあざやかに決まってました。カタルシスを味わいました。
というわけで、本書は隠れたミステリーの名品として、強く推したいと思います。