歌舞伎を通して江戸の風俗を味わう好読物です。
それも爛熟期の江戸ではなく、大きく変わろうとしている頽廃の香り高まる幕末の江戸なんです。
世は風雲急をつげ、世相は乱れ、庶民は日夜遊興に耽ることばかりを考えている。
今の日本では考えられない世界です。
でも、とても魅力ある世界です。
そういう点で、江戸というのは特異な時代ですね。その当時にしても上方(大阪、京都)とはまったく違
った世相だったんです。
本書を読めばそういった事情が手にとるようにわかります。その上歌舞伎の傑作「三人吉三」の魅力ある
世界にもどっぷりと浸れるんです。
このアクの強い物語の運命的なことといったら因果というものを、これでもかとわからせてくれます。現
代でも充分に理解できるおもしろさだと思います。
作者の語り口も平易でわかりやすいし、これなら、中学生ぐらいの子でも充分読めるだろうと思われま
す。どうか手に取ってみて下さい。