ヘレン・マクロイの「暗い鏡の中に」でも本書と同じ謎が描かれる。同時に離れた場所に現れる同一人物。ドッペルゲンガー?双子?前者だとオカルト、後者だとトリックという解釈になるのだが、キングが描くとなると、そりゃ前者でしょ。
読み始めるまで、これおもろいんかな?とためらいながら手に取ったのだが、やはりそれは杞憂で、読み始めからグイグイ引き込まれた。物語は、英語教師でジュニアリーグの監督を務める男が大事な試合の真っ最中に多くの観客の目の前で警察に捕まる場面から始まる。彼は無残に殺された少年の事件の容疑者として手錠をかけられたのだ。
さて、ここからキングはなんとも素晴らしい黒か白かの物語を展開する。容疑者のテリー・メイトランドは誰からも慕われる見るからに誠実な人間で、本人も無罪を主張している。しかし、事件当日に彼が殺された少年と一緒にいるところや、血まみれの姿を多くの住人が目撃しており、なおかつ現場から採取された精液はDNA鑑定でテリーのものと判定。犯行に使われたと思われる盗難車からもテリーと少年の指紋が採取された。これだけ証拠が集まれば、いくら清廉潔白だと思われる人物でも逃げ道はないんじゃない?
しかし、しかしである。犯行の日テリーは、学校の同僚と一緒に泊まりがけで事件が起こった場所からほど遠い町で会議に出席していた。しかもゲストで招かれていたハーラン・コーベンへの質疑応答でしっかりと映像にも残っていたのである。ここで明白な矛盾がうまれる。いったい、どちらのテリーが本物なのか?いやいや、どちらも証拠はテリー本人だと指し示しているのである。同時に二ヵ所に現れたテリー。これが「暗い鏡の中に」なら不穏さを残しながらも明確な説明がなされるのだが(だって、ミステリだもん)、そこはキングこれから下巻でその真相が解明されるのだろうが、ここは超常現象的な真相があきらかになるのだろう。そこにどれだけの恐怖とリアルがあるのか、いまから楽しみであります。
といいながらも、この上巻でなかなかの息苦しさ、不安、恐怖は味わったけどね。だって、キングったらいつもの執拗さで容疑者側と被害者側の残された人々の辛い日々をこれでもかって描いてくれたからね。
ということで、下巻へダイブ!!!!