ヤングの長編って本書が初めての翻訳なのだ。そういえば、ヤングって短編の人って認識だったもんなあ。本書は以前同じ創元SF文庫から刊行されたロマンティック時間SF傑作選「時の娘」に収録されていた同題の中編を書きのばして長編に仕上げたものなのだ。
だから基本、その中編を読んだ人はこの長編がどういうラストをむかえるか知っているわけだ。ぼくもすでに中編の方は読んでいたので、本書のラストがどうなるのかは知っていた。でも、細かい部分はすっかり忘れていたのですごくおもしろく読了した。
ヤングといえば、いわずとしれたロマンティックSFなのだ。だからこの話も極甘にしあがっている。本書のいいところは、前置きも長々しい導入部もなしにいきなり本題に入るところ。とりあえず開巻早々主人公であるカーペンターは恐竜と一緒に二人の子どもを見つけるのである。時代は白亜紀後期。カーペンターはその時代の地層からあるべきでない人間の化石が発掘された謎を解明するため派遣されたタイムトラベラーなのだ。だから、いるはずのない人間の姿を見て、彼は心底驚いてしまう。とにかくカーペンターはその二人の子ども(女の子11歳くらい、男の子9歳くらい)を助ける。そしてさらに驚くべき事実を知ることになる。
ま、こんな感じで物語ははじまるのだが、これが時代なのだろうね、ほんと気負わず、安心して読めるSFになっている。まあ、スラスラ読めること請け合いだ。アクションシーンも結構盛りこんであったりしてハラハラドキドキ、そして常にやさしい気持ちに包まれて読みすすめることになる。守るべき存在として二人の子どもがいるため、読み手も主人公と同化して子どもたちの安全を最優先に考えて読みすすめていくことになるのだが、これが最良の形でラストに結実するというわけ。
内容的にはタイムトラベルだけでなくかなり壮大な物語背景が構築されていて、これが堅実に設定されているところなどは見事なものだったし、中編の書きのばしにしては構成に無駄がなくダレ場がいっさいないところもよかった。ただ、ひとつ難をいうなら二人の子どもたちが歳のわりには途轍もなく聡明なところが気になった。しかしよくよく考えてみれば子どもたちの年齢はカーペンターが勝手に見積もったものだし、ほんとうは見かけより歳をくっていたのかもしれない。そうだとすれば、11歳の女の子に欲情する大人に引いてしまうこともなくなるわけだ。実際のところ彼らは何歳なんだろうか?それともカーペンターの見積もりは合っていて、二人の子どもの発育が日本の基準よりもずっと良いものだったのかもしれない。これだと見かけが実際はずっと大きくみえていたはずなので、そういった状況もありうるかもしれないのだ。なんのことを言ってるんだ?と疑問におもわれた方は是非とも本書を読んでいただきたい。
とにかくこの長編はラストでかなりハッピーな気分になれる。あの有名な「たんぽぽ娘」なんか足元におよばないくらいの完成度なのだ。実際のところぼくは「たんぽぽ娘」はあまり評価していない。あれはヤングの作品の中では失敗作だとおもっているくらいなのだ。
その点、本作はかなり見事に仕上がっているとおもう。まあ、未読の方はダマされたと思って読んでみて。こんなに幸せな気持ちになるSFも、そうそうないとおもうのだ。