読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

火葬場

 おじいちゃんの葬式だった。わけもわからず火葬場につれてこられて、気がつけばみんなとはぐれていた。するとまだ若いお母さんと幼い子の目の前に焼けた遺体が運ばれてきた。ほとんど骨になっていたが、まだ下の鉄板が脂で光っていてところどころ骨に黄色い脂肪がついていた。そのジュージュー音のしてる骨を前に係員が母娘に説明をはじめた。

 「調子が悪くて、少し焼きがあさかったのですが説明させていただきます。これがノドボトケですね。ここに仏様が鎮座されてます。キリスト教圏内では『アダムのリンゴ』と呼ばれている部分ですね」

 まだ生焼けなので、なんともいえない焦げくさくて妙に甘いにおいが気持わるい。たまらなくなってぼくはその場を離れた。母娘は興味深そうに生焼けの骨をのぞきこんで説明をうけている。いったい身内の骨を、それもあんな生々しい臭いのしている骨をよくあんなに熱心に近くで見れるものだと思った。

 しかし、ぼくの家族はどこにいったのだろう?それに火葬場ってこんなに人が大勢いるところだったろうか?ぼくのまわりには二、三十人の人たちがとりまいていた。みんな両手で大きめの皿を持ってお骨が焼きあがるのを待っている。うん?皿?どうして皿なんか持ってるんだ?

 ぼくは何気なく窓の外をみた。桜や五両松が植えられている一隅になぜかパースニップの畑があった。やがてにぶい低音のブザーが鳴ると、みんなゾロゾロと一角に集まりだした。ぼくも所在ないのでそれについていくと、さきほどの母娘がやはり脂で光る骨をのぞきこんで説明をうけていた。

 そのときぼくの携帯が甲高い音をたてて着信をしらせた。いっせいに振りむくすべての人たち。気のせいかもしれないが、鉄板の上の頭蓋骨もこちらに向きなおったようだった。ぼくは携帯をとりだしてとりあえず音を消そうと焦るのだが、もどかしくも携帯はポケットからなかなか取りだせなかった。音は少しづつ音量を高め、いまでは耳をおさえなくてはいけないほど大きな音になっていた。音が目に見える。黄色と紫の色が交互にぼくのポケットから沸きたち空間に消えてゆく。まわりの人たちの目が怒りに赤くなっている。携帯は依然出てこない。というかポケットの中にない。なのにぼくのポケットからは携帯の音が鳴り響いている。ぼくは泣きそうになりながら必死に携帯を探しているがそれが見つかることはない。


 音は急速に高まり、それにつれてぼくは浮上する。どんどんどんどん音が近づき、ぼくは目を覚まし、目ざましのアラームを止める。