読書の愉楽

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アンドリ・S・マグナソン「ラブスター博士の発見」

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 作者はアイスランドで本国の文学賞を3回も受賞しているそうで、かなり有名な作家なのだそうだ。一読して驚いたのが、その奇想っぷり。メインのテーマであるラブスター博士の大発明にはじまり、宇宙に打ち上げられて流れ星となってふりそそぐ遺体や、もしあのときこうしていれば・・・と尋ねれば、その結果を即時教えてくれる『後悔(リグレット)』の存在。たとえば、本書の主人公の一人であるインドリディ(なんて名前だ!さすがアイスランド)がある可能性について尋ねると

 

 「そのときあなたの右腕は、北緯六四度〇五・五三六分、西経二一度五五・三一分にあったでしょう。そしてその同じ瞬間、バスの左前輪がまさに同じ地点にあったはずです。四十分の一秒後、あなたの頭がバスの左後輪の下敷きになり、その四秒後にはあなたの体の一部、おそらく腸が、プジョー二〇五GRの前輪に巻きついているのが見えます。芸術的な、あるいは写実的なイラスト入りの証明書をご希望ですか、それとも口頭の報告で充分でしょうか?」てな具合である。さらにさらに、私を食べてと歌うパフィン(ニシツノメドリって鳥ね)や、六百八十キロもある超巨大なヴァイキング・センチュリー・フォックス(キツネね)の存在、などなど次から次へとどんどん奇妙なものが登場するのである。

 

 そんな奇妙な世界で繰りひろげられるのは、この世界を創造したともいえる神のような存在のラブスター博士とインドリディ、ジグリッドの引き裂かれる運命にある恋人たちの物語。ラストにひかえる『一億の星祭り』にむけてすべての要素が集約されてゆく。

 

 ラブスター博士の運命は?インドリディとジグリッドの愛は?一億の星祭りは成功するのか?そしてこの奇妙な世界はどうなってしまうのか?

 

 奇想以外はきわめてオーソドックスな物語展開の本書は小品の印象を受けるが、独特の光をはなっている。2012年フィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞したのも納得の作品である。